西陣にまつわる
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西陣にまつわる人々が、綴るコラムCOLUMN

2022.10.05
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西陣エリアの特徴として、古い町家の街並みが市内中心部と比較して、かなり残っている、ということが挙げられるように思う。原因としては中心部から離れているが故に大資本が更地にしてビルを建てるなどという開発行為が割に合わないため、と勝手に考えている。とは言え、西陣エリアは大規模開発にはそぐわないかもしれないが、個性的な個人商店が展開できる土壌があるという見方もできるし、実際に新規でオープンした喫茶店、ホテル、町家一棟貸しの宿、ゲストハウスなどが多い。2022年10月から、大宮寺之内のあたりで蔵付きの町家の改修工事を行う予定でいる。用途は店舗、もしくは事務所だが、いまから面白い施設になるだろうとわくわくしている

赤澤 林太郎

都市企画家 赤澤 林太郎

町家を中心に、既存物件の活用を提案しています。

2022.10.03
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ジョッキに注がれた生ビールをゴクリゴクリと流し込んでいると、「あぁ、夏だ」と感じる。あるいは、夏が来たと感じているから、生ビールをゴクリゴクリとしたくなるのかもしれない。卵が先か、鶏が先か。生ビールが先か、夏が先か。

瓶に入っているビールをグラスに注ぎ、しっぽりとやっていると、「あぁ、秋だ」と感じる。あるいは、秋が来たと感じているから、瓶のビールでしっぽりとやりたくなるのかもしれない。卵が先か、鶏が先か。瓶ビールが先か、秋が先か。

僕は瓶ビールでしっぽりとやるのが特に好きで、テーブルを囲む人たちで少しずつ瓶の中身を分けていく手間がなんとも愛おしい。上司と部下でビールを注ぎあったりなどのコミュニケーションは面倒くさいけれど。「同じ釜の飯」のように、「同じ瓶のビール」という言葉があってもいいような気がする。気のしれた友人と注ぎあったりするのも妙に楽しかったりする。

瓶の中のビールを、一滴でも多く飲んでやりたいと思って、虎視淡々と瓶ビールを狙っているから、必然的にグラスの中身が減るスピードは速くなり、注ぐ回数も多くなる。Sapporoの瓶ビールを箱で手に入れて、上から眺めるとたくさん星があったりするから、なんだかプラネタリウムみたいでロマンチックだ。

僕はいつどこで瓶ビールが飲みたくなっても安心できるように、小さめの栓抜きをいつも携帯している。それほどに、僕は瓶麦酒至上主義者なのである。

大成海

綴り手/探り手 大成海

2000年広島県広島市生まれ。京都在住。もの書きとデザイン。 本と映画と音楽と酒をこよなく愛す。本屋や出版社などいくつかの場所で働き、稼いだお金は本と映画と音楽と酒に消えてゆく。気の向くままに散文を書いたり、デザインをしてみたり。いつでも大好きな瓶ビールが飲めるようにと、携帯栓抜きを鍵につけて常に持ち歩いている。

2022.10.01
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木を見て森を見る。

9月12日に参加したSILKの大研究会で大室所長が、開会の挨拶としてこの言葉を贈ってくださいました。

「木を見て森を見ずとは一般的に言われますが、私は最近、木を見て森を見ることが重要ではないかと考えました。一本の木を突き詰めていけば、そこには無数の細菌の営みがあり、大地の働きがあり、その木が影響を与えている物事がある。つまり、一本の木を見るためには森を見なくてはならない、そんなことを思うようになったのです」

以来、ぼくの脳裡ではこの言葉が反芻しています。京都で暮らしをはじめて半年が経過しようとしていますが、なによりもぼくが体験していることだからかも知れません。地域の皆さんと関わり続け、ローカルと生きることを問い続け、愛にゆだねて、一本のbeingの木を、ただ、じいっと、みつめてきました。驚きに満ちた日々が自分の微力さを教えてくれ、自分と、他者と、この大地と、歴史に再会して、ショックで血塗れになって家へ帰ります。

そんなことより、船岡山では金木犀が花を咲かせました。香りをのせた秋風が事務所にそよよ~と吹き込み、黄昏を待ち望むラブリーな季節です。かけがえのないときを、一瞬たりとも逃したくない!

瀬川航岸

SOCIAL WORKERS LAB コーディネーター 瀬川航岸

滋賀県東近江市出身。自然豊かな土地に育つ。立命館大学経営学部入学後は映画や絵本に没頭。川のようにゆふらゆらざざざ〜っと生きるうち、SWLABに遭遇し、メンバーに。2022年4月から京都で暮らしをはじめる。2つの社会福祉法人に勤めながら、船岡山公園を拠点に駆け出し地域コーディネーターとして奔走中。

2022.09.24
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夕暮れが近づく交差点で信号待ち。視線を感じた。
思ったより大きな(10等身ほどの)彼女はじっと南を眼差し、その眼下をさまざまな速度で人が行き交う。

古来より私たちは自然をさまざまなものに見立て、見出し、この世ならざるものの気配を感じ取ってきた。
雲から現れる大入道、月面に浮き上がる貴婦人、コンセントに住む小人の顔。:)
普段は背景と溶け合っている彼らと目があった時、私たちはあらゆる気配が息づく中で生活していることを気付かされる。
そしてほとんどの場合、出会った翌日には彼らの存在は薄れているはずだ。だから今、記憶から粛々とこぼれ落ちていく彼女を書き留めておきたい。

堀川今出川に座する長身の彼女に巨人の威風はなく、その目には憂いを宿していたように思う。いつか来る誰かを待っているのか、もう去ってしまったのか。あるいはゆっくりと変わりゆく街並みに思いを馳せていたのかもしれない。
いずれにせよ、私たちの時間の尺度ではそれを知り得ることは叶わない。
両者の間にある「分かり合えなさ」は、いつまでも青にならない横断歩道のようにこれからも隔たれたままだろうか。

束の間、留まっていた時間が進むのを感じる。信号が変わった。
ペダルを漕ぐ足が再び動き出す。

黒田健太

紡ぎ手/綴り手 黒田健太 オサノート

初めまして、 西陣に住んでいる黒田健太です。 夜のがらんとした千本通を歩くのが好きで、たまに夜中に出かけます。生活をしていると忘れてしまうのですが、そんなささやかな時間にときどき立ち寄りたいと思っています。

2022.09.21
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街に対して抱くイメージは、そこへ行くと壊れたり、輪郭が太くなったりする。先日西陣でお昼ご飯を食べる機会があって、食後に辺りをぶらぶらと歩いた。黒い物体に陽光が当たると瞬く間にその物体に熱が籠るような時間帯だったので、ぶらぶらしなければよかったと思った。しかしぶらぶらし続けたということは結局西陣をゆっくり歩きたかったということだ。
歩いていると、夏が鋭く響いていた。尖った夏の隙間を縫うようにして、ガタゴトと音が聴こえてくる。最初は何の音か、どこから聴こえてくるのかも分からなかった。でもいつからか、柔らかさと重さを併せ持つ音が、硬くて湿った夏の音を完全にはねのけている。その時、西陣のイメージ、つまり西陣織という伝統工芸の街としての印象が、頭の中で肥大化して、だんだんと色が濃くなって、音に対する疑問が止まる。その音の正体を明かしたい気持ちが汗と一緒に散っていく。やがてガタゴトという音は夏にすっかりかき消される。ぶらぶらとするのをやめ、自転車に乗って帰路につく。
西陣の街は、いつ歩いても音で満ちている。そんな気がする。それは西陣の音であって、どの街にも共通している「何か」ではない。

益田雪景

ライター 益田雪景 オサノート

広島県出身。同志社大学在学中。大学ではボランティア支援室学生スタッフARCO及び新島塾2期生としても活動中。小説家は太宰治と遠野遥、映画は「劇場」と「ミッドナイト・イン・パリ」、音楽はgo!go!vanillasとB T Sが好きです。

2022.09.19
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台風の影響なのだろう、雲が空を走っている。
なんとなく気になって戸締りを確認するために、版画制作をしている工房に自転車を走らせた。

右京区の、商店街の中にある本屋を改装した版画工房。20年も前の最初の頃から参加していて僕の座っていた席はその頃からのインクの汚れで机が真っ黒になっている。

先週の作業で出たゴミを出してまた席に着く。入口横の席で商店街の朝のやり取りを聞きながら版に線を刻む。
この工房も今年いっぱいで閉めてしまうらしい。

道具を研いで、近くにあった銅板にドライポイントで線を刻んだら反転して左利きになってしまった。

一月後、久しぶりに版画の展示をする。
西陣にあるイワシコーヒーの店舗内で。
それでこの席にまた着いたのだ。

展示までの一月でこの机をあとどれくらい黒くできるか、そんな事を毎日考えながら版画を作っている。

展示のお知らせ

西陣 イワシコーヒー

景井雅樹 銅版画展
10月13日(木曜日)より〜一月ほど。

景井雅樹

版画家 景井雅樹

京都の版画工房で銅版画を始める。 2006年頃より、毎日の出来事をノートに青いボールペンで描く絵日記形式の作品を作り始める。 一日1ページで現在4000ページほど。まだ毎日描いている。 コーヒーと自転車と音楽の愛好家。

2022.09.17
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何を隠そう私はタイ生まれのタイ育ち(9歳まで)でございます。
ということでしっかり今年の夏はタイに行って参りました。やっぱりタイはいいね!ということなのですが、程よいローカル感、ほど良い観光感を味わえたのがよかったかなと。
何もなさすぎたら面白くないけど過度な観光地化は何か違う、そう思う旅行客は多いのでないでしょうか。京都に置き換えたときにまさにそんな絶妙なバランスが取れていそうなのが西陣じゃないのかなとバンコクで大好きなタイ料理を食べながら考えておりました。
観光中心地にはない入り組んだ路地も多く個人店も多い、かと言って全く観光地がないわけではない。私はバックパックを担いで京都を訪れる観光客なら西陣らへん最高やんってなりそうだなと大好きなタイ料理を食べたいなと思いながらコラムを書いています。

森 風渡

風とCOFFEEオーナー 森 風渡

2020年10月に"風とCOFFEE"を西陣京極にオープン。コーヒー屋には不向きとされる入り組んだ路地奥にて自家焙煎を行う傍ら、京都で1番ディープな路地(自称)である西陣京極に新たな風を吹かせるべく奮闘中。

2022.09.14
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【虫聴きの会】2022年9月11日は十六夜。秋はもうそこにまで来ていました。

京都市上京区の真ん中にある京都御苑。御所を中心にした公園で、明治の遷都により荒廃した公家達の屋敷跡を整備して出来ました。上京区は真ん中に御苑が鎮座するために、東西に大きく分断?された形となっていて、ここを横断するには相当な覚悟が要ります。

今宵、月の光が射す御苑で”虫聴きの会”が催されました。苑内には23種の虫たちの声が専門家の耳により確認されたとか。西洋では虫の音は単なる雑音のように認識されていると聞いたことがありますが、日本は古来からさまざまな虫の声を愛しむ独自の文化があります。

京都の夜はぜひ御苑を訪れてください。苑内のベンチに寝そべりながら望む空は、広くて宇宙に漂うような浮遊感。きっとそこには平安の古人と同じ月を眺める自分が居るはずです。

山ノ瀬亮胤

眼鏡制作者・現代美術家・ソシエテヌーベルリュネト視覚研究所々長 山ノ瀬亮胤

京都市上京区在住。眼鏡制作者・現代美術家・ソシエテヌーベルリュネト視覚研究所々長。芸術~工芸に拡がる独自分野の構築で国内外より評価され欧州ハプスブルグ家御用達。マスメディアでの出演・取材多数。豊かな江戸庶民文化と職人の心を紹介している。

2022.09.10
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この夏から東京の向島で、新しいプロジェクトがスタート。ぼくは京都からの参加なので、メンバーとはオンラインで意見交換を続けながら、いろいろ書類作業を手伝ったりしているうち、夏の後半はあっという間に過ぎてしまいました。

 

そちらはまたご紹介するとして、先日その用で東京に出かけた際、履き物をテーマに活動する佐藤いちろうさんが、世田谷の生活工房で個展「シュー・ウィンドウ/靴を紐解く展覧会」を開催中でしたので、お邪魔してきました。お店のような空間に並ぶカラフルな靴の数々。実はすべてこれ、ガムテープでこしらえた靴なのです。会場では、参加者が素材を選んでオリジナルのスニーカーを作るワークショップの真っ最中。ちなみに佐藤さんには、2018年、現代美術製作所の企画で、今出川のバザール・カフェの庭をお借りして、同じワークショップを行なっていただいたことがあります。その時も、たくさんのご家族連れに参加いただいて大好評でした。相変わらず底抜けに明るい佐藤さん。お話ししてるだけで、こちらまで元気になります。今回の楽しい展覧会を見て、ぜひまた京都にお招きしたいと思いました。

曽我高明

ANEWAL Gallery現代美術製作所 ディレクター 曽我高明

東京の下町・墨田区の向島で、長年展覧会やアートプロジェクトに取り組んできました。縁あって2017年より上京区に拠点を移し、ANEWAL Gallery 現代美術製作所(通称:現代美術製作所)をオープン。ゆるいペースで様々な活動をしています。

2022.09.05
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九月に入り、京都を離れてから半年が経ちました。私は普段、自宅で仕事をしているため、お休みの日に京都の宿泊施設に泊まることが、気分転換であり楽しみになっています。

西陣では、KéFU、ゲストハウス糸屋、プチホテル京都(写真) に宿泊しました。
KéFUでは朝ごはんに、美味しいハムエッグトーストを食べました。お昼時ならナポリタンがオススメです。
ゲストハウス糸屋は、部屋の畳の匂いやお風呂のつくりが実家に似ていて、なんとも言えない安心感の中でよく眠れました。見送りの際には、ご主人が深々とおじぎをして送り出してくださり、心があたたまりました。

プチホテル京都は、一階のロビーにあるドリンクコーナーとフカフカのソファで過ごす時間がお気に入りです。実は、初めて泊まったのは高校生の頃で、大学受験時にお世話になりました。その時は、後に自分が西陣に住み、大学卒業後もずっと西陣に思いを馳せることになるなんて想像もしていませんでした!そう考えると、高校、大学、就職…と色んな出来事を経験していくのと同時に、西陣での思い出も増えていることに気づき、なんだか嬉しくなってきました。

依藤菜々子

紡ぎ手 依藤菜々子

同志社大学卒業。 2020年、同志社大学が発行する今出川地域のフリーペーパー「イマ*イチ」の制作を通じ、西陣ならではの凝縮された魅力を知る。 好きなもの:アニメ/クラシック音楽/ミッフィー