西陣にまつわる
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景井雅樹

版画家景井雅樹

京都の版画工房で銅版画を始める。 2006年頃より、毎日の出来事をノートに青いボールペンで描く絵日記形式の作品を作り始める。 一日1ページで現在4000ページほど。まだ毎日描いている。 コーヒーと自転車と音楽の愛好家。

2022.09.19
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台風の影響なのだろう、雲が空を走っている。
なんとなく気になって戸締りを確認するために、版画制作をしている工房に自転車を走らせた。

右京区の、商店街の中にある本屋を改装した版画工房。20年も前の最初の頃から参加していて僕の座っていた席はその頃からのインクの汚れで机が真っ黒になっている。

先週の作業で出たゴミを出してまた席に着く。入口横の席で商店街の朝のやり取りを聞きながら版に線を刻む。
この工房も今年いっぱいで閉めてしまうらしい。

道具を研いで、近くにあった銅板にドライポイントで線を刻んだら反転して左利きになってしまった。

一月後、久しぶりに版画の展示をする。
西陣にあるイワシコーヒーの店舗内で。
それでこの席にまた着いたのだ。

展示までの一月でこの机をあとどれくらい黒くできるか、そんな事を毎日考えながら版画を作っている。

展示のお知らせ

西陣 イワシコーヒー

景井雅樹 銅版画展
10月13日(木曜日)より〜一月ほど。

2022.05.22
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オサノートという名前は西陣織の道具、筬(おさ)ノート(音)からきているそうだ。
一年間書いて最後の今回は西陣の音について書きます。

僕はたしかに音を出しに西陣に来た。90年代の中頃、西陣の染物屋の二階で所謂セッションをするためにギターを持って初めて西陣に来たのだ。
憶えいるのが、ギターと打ち込みの音と混ざった染物の機械の音。
演奏が終わり、うどん屋の出前で丼を頼んだ。
その場所は、たぶん今住んでいるところの近所なのだろうが染物屋もうどん屋も、その時録音した音源もいまだに見つけられない。

数年後、真夏の暑い日にまたギターを持って西陣を訪れた。今度は募集に来た人と演奏をするためである。
ドラマーでヴォーカリゼーションというものにも興味があるというその巨漢の男の部屋で机やグラスを叩いた音にギターをつける。
続いて巨漢から奇声。ヴォーカリゼーションというものなのだろう。
すぐに近所からの苦情で隣の神社に追い出され、そこで蚊に刺されながらギターを弾いた。羽虫の音と木のパーカッションとギターの音。

僕だけでなく、90年代の鬱屈した若者(一部だろうが)は即興で音楽を演奏する事を好んだ。混沌とした中になにか方向性が見えるのが面白かったのだと思う。
僕自身はその後、演奏はあまりしなくなり、CDのジャケットやチラシなどに絵を描いていた。

来週、東京に行く。そんな感じでミュージシャンになった友人の音楽スタジオを手伝うつもりなのだ。
楽器や機材は運び込むが、具体的になにをするのか全く考えていない。
ただ、そこで作られる音楽は綺麗にパッケージされていくとしても、染物屋や神社で出た音と本質的にはあまり変わらないと思っている。

読んでくれてありがとうございました。
また、西陣のどこかでお会いしましょう。

2022.04.12
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花を描く事が苦手である。
もちろん綺麗だとは思うのだけど、どうも自分なりに描こうとしても自分のものになった気がしないのだ。
花びらの数や色、どうも構造が理解できていない。
詳しい人に後ろから間違いを指摘されないか、いつもドキドキしながら描いている。

それで最近は反則技を使いだしている。花を見たら落ちている花びらや枝を拾ってノートの絵の中に貼り込む。
植物を実際に採取して物質的に自分のものにしてしまうのだ。
これなら青いボールペンしか持っていなくても花の色を取り込める。

西陣の雨宝院に緑の桜がある。これだけは昔から好きで毎年見に行く。
今年もそろそろ見頃だろう。

たしか散っていくピンクの桜と満開の緑の桜のコントラストが綺麗なのだ。うまいこと花びらが落ちていれば採取して花の絵が描けるので、楽しみである。

2022.03.12
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西陣に来た頃から、とある仕事に手を染めている。
壁画制作、つまり店舗や公共の建物の壁に描かれている「絵」の制作をする仕事である。

僕と同じタイミングでこちらに工房を移したというボスとヘルメットを被り、建設現場に絵を描きに行くのだ。
現場の職人さんたちもこういう職業は見たことがないらしく、打ち合わせなどでも呼び方が分からず「絵描き屋さん」とかと呼ばれたりする。

この仕事では原画があり、デザイナーもいてその上で描く事をする仕事である。それまで自分だけの絵を描いていた僕は、仕事として絵を描く事がどういう事かを厳しく言われ最初は少しショックを受けていた。
だが納期前の徹夜続きの中、クォリティを上げるためになお細かい修正を繰り返すボスに絵描きの気持ちを見た気がする。それが全体を変えるのだ。

気持ちの入っていない絵は見たらすぐにわかってしまう。
壁画の仕事はアートや芸術の世界で語られるものではないかもしれないが、描く手にはそれぞれの感性があるのだ。

2022.02.08
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年初めなので、登山靴を新調した。
長い間憧れていたオールレザーの昔風の登山靴。

こういう靴は履くまでにも手間がかかるらしい。縫い目を液で何度も乾燥させながら目止めして、それが終わったらワックスを手で擦り込む、つまり自分で防水加工をしなければいけないのだ。そして中敷をいれたり靴下を合わせて調整したりと。
そんな事を2日もかけてやっていく。

そして、いよいよおろす。
せっかくなので格好も昔風のハットをかぶって旅気分で近所を散歩してみるのだ。
そしていざ、歩いてみるとまだ全然革が硬くて痛い。そして片方1キロはある登山靴は慣れないと足に重りをつけているようだ。
いつもはサッサと通り抜けていく西陣の道を一歩一歩ロボット歩きで歩いていく。

そしてもう疲れて部屋に戻ろうとすると、みたらし団子ののれんが目に入ってきた。
たぶんいつも見ていたはずなのだが意識した事なかったのかも。
甘いものが欲しくなり、立ち寄ってみた。

店のおばちゃんも僕が慣れない観光客に見えたのだろう。団子を用意しながらいろいろとの辺りについて教えてくれる。

「熱いうちに食べてな!」と念を押されて団子を手渡されたので、部屋に戻ってから食べるつもりが本当に観光客のようにみたらし団子を歩き食いすることになってしまった。

食べてみて驚いた。
おばちゃんの旦那さんの実家の飛騨高山の味付けというそのみたらし団子、甘くないのだ。
醤油の香ばしい味。今まで食べたことのない種類の団子である。

いつも歩いている道も違う設定で歩いてみると違うモノが目に入って、新たな出会いがあるものだ。

2022.01.06
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元旦。早朝。
年末から溜まっている事を片付けるために作業場に戻る途中、北野天満宮に寄ってみた。
朝早いので人も少なく、大晦日の晩から降っていた雪が本殿と梅の木に白い化粧をしている。

毎年北野天満宮に初詣をしているのだが、もしかしたらこの風景で初詣をするのは初めてかも知れない。

お詣りを済ませて、境内を歩いているとテントから声をかけられる。
ワインの試飲をしているとのこと。

ドイツの白ワインとハンガリーの赤ワインだそうだ。
2022年の元旦の朝は紅白のワインで始まった。

本年もよろしくお願いします。

2021.11.29
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<前回からの続き>

西大路通りの待合室の店を出て行った「イワシ」は回遊魚らしく、京都を彷徨っていました。
僕はコーヒーを配達する「イワシ」を街中で見かけたり、以前看板に描いた魚マークのコーヒー豆をイベントなどで見かけたりしていたものです。

そんな感じが3,4年続いた後、

「イワシ」から西陣にお店をオープンするという連絡をもらいました。
待合室で知り合った面々と改装中の店舗へ行った僕は、「イワシ」と町屋の土壁を綺麗にしたり、カウンターの塗装の手伝いを一緒にしたりしました。
そうしてIWASHI COFFEEは無事、西陣の片隅にオープンしました。

西陣には今、コーヒーの「イワシ」がいて、僕は相変わらずそこでコーヒー豆を買ったり、待合室や西陣の店で知り合った人と山を登ったりしています。

実は、新たにオープンした時に山の版画を作って欲しいという事を「イワシ」から言われていたのにずいぶん長いこと放置している。
今年はずいぶん山に登ってコーヒーを飲み、だいぶ調子も戻ってきたのでそろそろ出来る頃だと思います。

2021.10.30
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村上春樹に「いわし」という名前の猫が出てくる小説があるそうだ。
まだ未読なのだが。
ただ今回は魚でも猫でもなく、コーヒーの「イワシ」が西陣にいるという事を書こうと思います。

最初に「イワシ」を見たのが西大路通りで自転車で信号待ちをしている時でした。
横をみると新しく出来た、駅の待合室くらいの白い小さな店。黒いテントにIWASHI COFFEEの文字。
お店から出てきた男性に「店主も自転車好きですよ」という謎の言葉をかけられ、店内に入ってコーヒーを一袋買って帰ったのが最初です。

翌週、コーヒーマニアを自負していた僕はそこを訪れて豆の感想を「イワシ」に伝えました。それでコーヒー談議をしていると、まだオープンしたばかりで看板もロゴもないと言う。
それなら、と木製の立て看板に「イワシ」のロゴを考えて描いたものを持っていきました。

それから新しい焙煎をするたびに感想を言ったり、待合室くらいの店内で居合わせた人とコーヒーを飲みながら話したり、店内で展示と版画のワークショップをさせてもらったり、焚き火をするために自転車で山に行ったりと「イワシ」と過ごすことが多くなりました。

そんな日々が3年ほど続いた後「イワシ」は西大路通りの待合室みたいな店を出ていきました。

長くなりそうなので
「続く」

2021.09.30
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部屋の窓と版画プレス機と作業台、ついでにコーヒー器具を描いた展覧会のハガキ。その横にトドメの一押し、「西陣」の消印。

このエリアに仕事部屋を借りたばかりの僕は古い建物と版画道具の馴染みにすっかり気をよくして、部屋のものばかり描いた展覧会を企画したのだった。ついでに引っ越しのアナウンスもできるし。

そして、案内のハガキを作るとわざわざ、近くの西陣郵便局で記念切手を買い、近くの喫茶店で貼り付け、手書きで宛名を書き、また郵便局に行って消印を押してもらうというなんとも非合理なやり方でDMを出すという事をしていたのだ。
今、思えばあれは制作のために気持ちを集中させる儀式だったのかも。
そうして、部屋と窓とその周辺の版画ばかり展示した展覧会をしたのだった。

それからは制作や仕事のスタイルも変わってしまい、ああいう感じの展覧会はしていないのだが最近になって、またそういうやり方の展覧会をもう一度やってみたいなと思うようになった。

その時は西陣郵便局かもしれないし、また違う土地かもしれないが、暮らしている土地の消印を押した案内を出してみたいものだ。

*絵はその頃の日記に描かれたイメージです。実際の西陣郵便局は〒型の窓ではありません。

2021.08.31
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今年の夏は雨がよく降る。そしていつも夏になると決まって調子が悪くなる。なかなか仕事も進まない。

何年か前の夏、雨の日に野良ネコの親子をとなりの屋根の上で見かけた。子ネコが屋根から飛び降りれなくて鳴いているのを母ネコが下から見ていた。
雑種で白い毛、尻尾がグレーでよくみると目がブルー。

何日かすると子ネコだけになってセミの死骸を食べようとしてたりするので、見かけた時は自分のごはんから少し分けたりしていた。
そしてしばらくするといなくなってしまった。
おそらく仲間のいそうな北野天満宮に移動したのだろう。

一月ほど経って夜中にそのあたりを歩いていると今度は丸々と太ったネコを見かけた。近づくと駐車場の車の下に潜る。
そこにあの白いネコが現れた。車の下を見て気にくわない顔をしたかと思うと助走をつけてその中に飛び込む。
(ものすごいネコの叫び声)
通りを歩いていた通行人も何事かと立ち止まる。
声が静まるとあのネコはのっこりと車の下から現れて身体を舌で舐め始める。
おそらく自分の縄張りに入ってきたあの太ったネコをボコボコにしたのだろう。
子ネコはすっかりたくましくなっていた。

最近でも天神さんの近くを歩くと時々あのネコとすれ違う。
もう白い毛も薄汚れた、いかついヤクザネコになっているが。
しかし、夏場の調子の悪い時にその姿をみると少し元気がでるのだ。