西陣にまつわる
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曽我高明

ANEWAL Gallery現代美術製作所 ディレクター曽我高明

東京の下町・墨田区の向島で、長年展覧会やアートプロジェクトに取り組んできました。縁あって2017年より上京区に拠点を移し、ANEWAL Gallery 現代美術製作所(通称:現代美術製作所)をオープン。ゆるいペースで様々な活動をしています。

2022.04.19
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現代美術製作所では、4月の末から久しぶりの展覧会を開きます。今回個展を行なっていただく鈴木貴博さんは、「生きろ」というシンプルなメッセージを、写経のように書き続けるプロジェクトで知られているアーティスト。この写真は製作所のFacebookでも紹介しましたが、1999年、鈴木さんが西陣でパフォーマンスを行った時の様子で、広々とした会場の床を埋め尽くす「生きろ」のメッセージが壮観です。その当時「西陣北座」と呼ばれていたこの建物は、今でも大黒町に健在で、現在はロボットメーカーの(株)テムザックの入っている場所と聞けば、ピンとくる方も多いことでしょう。今回の個展「日曜絵画」では、2011年以降に描き続けている絵画作品から、30点ほどを選んで展示します。「生きろ」みたいな活動をするアーティストのことですから、描く絵もなかなか一筋縄ではいかない、ユニークな表現に溢れています。「密」になりそうな会期中のイベントは控える代わり、チラシのバリエーションを増やしたり、作品を元にした缶バッジを作ったりなど、他の面で少しだけ遊び心を加えつつ準備に勤しんでいます。

2022.03.19
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季節の境目って、どこなのでしょう。暖かくなったり寒くなったりを繰り返しながら、次第に春の近づいてくるのを感じます。遠くの空がぼうっと霞んで見えたのは、たぶん黄砂ですね。昨夜(13日夜)は雷雨があって、湿り気を帯びた柔らかい風が吹いていました。長いこと冬眠していた現代美術製作所でも、展覧会の話がいくつか進んでいます。個展やグループ展は、ふつうは明確に会期が決まっていて、アーティストはそこに向けて作品を準備し展示を行います。アーティストにとっては、会期の初日が作品制作のゴールであり、展覧会を開くぼくらにとっては、そこがスタート地点になるわけです。でも最近、二人の別々のアーティストとオンラインで打ち合わせをしていて、そのかっちりとした会期や制作・発表のタイムラインが、なんだか今の時代に合っていない気がするね、という話になりました。あらかじめ決めた予定が変わってしまうことの多いコロナ禍の時期を経て、そんな共通の感覚が芽生えてきたようです。季節がゆるやかに変化するみたいに、始まりと終わりの時期を少しぼやかして、会期中もいろいろと小さな動きがあるような展覧会の形を、いま考えているところです。

2022.02.15
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突然ですが、ぼくは2月で大殺界を抜けるそうです。たしかに昨年は病気もしたし、この2年ほどあまりパッとしたこともなかった。まあそれを言うなら、コロナウィルスのせいで、世の中全体がいまだに大殺界みたいなものですけどね。占いはあまり信じなくても、この先良いことがありそうだと言われると嫌な気はしません。そういえば最近、「占い師」じゃなくて『陰陽師』っていう、岡野玲子さんの長編漫画(原作:夢枕獏)を初めて読みました。クールな主人公の安倍晴明と管弦の名手で超天然な源博雅が、ホームズとワトソンみたいにコンビを組み、霊的な難事件を解決していくところから始まり、後半に入ると、どんどんお話がスケールアップしていって面白い。その第8巻の解説で、作者の岡野さんが、安倍晴明のお屋敷のあったという場所に触れていまして、すぐご近所なので、さっそく散歩がてら訪ねてみました。京都ブライトンホテル。ブライトンは「輝かしい村」っていう意味があるらしく、なんだか時代を超え「晴明」と不思議な暗合を感じさせます。ただいま絶賛修繕中。もう少ししたら、パッと明るい外観に蘇るのでしょう。世の中の方も、ぜひそうなって欲しいものです。

2022.01.13
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とっくの昔に松の内は過ぎ、すっかり遅めのご挨拶で恐縮ですが、みなさま、新年明けましておめでとうございます。元旦の朝、起き抜けに窓から眺めると、大晦日に降った雪が、隣家の屋根をうっすらと雪化粧していたのが新鮮でした。ぼくが運営する現代美術製作所は、東京の墨田区で1997年に活動を始めて、今年で25年目、NPO ANEWAL Galleryの協力を得て西陣に拠点を移してからは、5年目となりました。数百年も続いてる京都の老舗と比べたら、昨日や今日に出来たようなものですけれど、オルタナティヴ・スペースの場合、3年続けば老舗だなんて冗談もあるくらいなので、よく続いてる方かもしれません。アートが好きっていうのもありますが、まあ、たぶん諦めが悪いんでしょうねえ、性格的に。もっとも、この2年間は、コロナを警戒して自主的にお休みをいただいた関係で、西陣での実質的な活動期間は、まだまだ僅かに過ぎません。なにか節目のイベントを考えてみたいですが、どうなるやら。ともあれ、活動のあるなしに関わらず、元日の朝に見た初雪のように、まっさらな初心を忘れないよう心がけつつ、新たな年を過ごしたいと思います。

2021.12.06
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おかげさまで、今年はコラムを書かせていただくようになって、季節の移り変わりや街の表情の変化に、以前より少しだけ敏感になれたように思います。ネタ探しの効用でしょうか。さて、写真は毎年秋になると堀川通りを明るい黄色で染める銀杏並木。先月末、たまたま渡った横断歩道からの入り口を見つけたので、初めて間近で眺めて来ました。中央分離帯の並木道なので、両側の車道によって周囲の街から切り離され、ちょっと異空間を歩いているような不思議な感覚でした。そこから少し下ったところには、つい先頃「堀川新文化ビルヂング」がオープン。書店とカフェとギャラリーを併設したオシャレな複合文化施設で、西陣散歩の途中、気軽に立ち寄れるのが良いですね。そうそう、身近なところでは、我が現代美術製作所のある路地の入り口にも、10月末「le murmure」という美味しいスイーツのお店ができました。製作所の活動再開に向け、甘党の自分には大いに励みになってます。スイーツとギャラリーのある「複合文化路地」なんてのは、いかがでしょう。なにはともあれ、再びコロナが猛威を振るわないよう祈る年末です。

2021.11.06
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コロナではないけれど、9月に人生初めての入院生活を経験しまして、3週間あまり病院で過ごしました。腕に点滴の針を刺し、リンゲルや抗生剤をぶら下げたハンガーを引きずって歩く不自由な毎日。一刻も早くこんな「ヒモつき」生活から解放され、また元気に京都の街を散歩したいと、そればっかり考えてました。10月末で退院から1ヶ月。体力も徐々に戻り、散歩の距離も以前と同じにまで回復、ようやくコラムのネタ探しも再開できるようになってホッとしています。いやはや健康あってのネタ探し。そんなわけで今回は、ちょうど京都市京セラ美術館で開催中の「モダン建築の京都」展に行ってきました。近代建築ファンには見逃せない、京都に残る有名な建物をほぼ網羅した、内容の濃い展覧会です。西陣エリアからは、以前も触れた「京都中央電話局西陣分局舎」(現・西陣産業創造会館)のほか、時々買い物や食事で利用する「堀川団地」が、貴重な資料や実物大の室内写真で紹介されていました。戦後の復興期、商店街再生を兼ねて建設されたRC造の都市型集合住宅。今も素敵な建物ですが、当時の人々の目には、さぞ輝いて映ったことでしょう。(会期は12月26日まで)

2021.10.07
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ある日、見知らぬ男性が訪ねて来て、いきなり「おたくの路地園芸、とても素敵なので、今度芸術祭にご参加いただけませんか?」と頼まれたら、大抵の方は「新手のオレオレ詐欺?」と怪しむかもしれません。10年ほど昔、アーティストの村山修二郎さんは、東京墨田区の京島で「京島路地園芸術祭」を企画しました。彼が選んだ10軒ほどのお宅にエントリーをお願いして、独自なマップを作り、地域の内外の鑑賞者に「路地園芸術スポット」を巡り歩いてもらいながら、路地やそこでの暮らしの魅力を再発見してもらうプロジェクトです。幸い木訥とした村山さんの人柄も手伝って、警察に通報されることもなく、何度か足を運ぶうち、みなさん快く協力してくださいました。初めは「うちの園芸なんて、人様に見せる価値が無いから」と渋っていた家も、二度目に伺うと、植木鉢が前より綺麗に並んでいた、なんてこともあったとか。「路地園芸術祭」では人気投票も行い、最多得票の方には、金色の植木鉢のついたトロフィーがプレゼントされました。西陣エリアを散歩するたび、彼のエピソードを思い出し、こちらの路地でもいつかプロジェクトをやってみたいと、勝手に妄想したりしています。

2021.08.17
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一定の広がりを持つ地域で、緑で覆われた面積の割合によってその地域の自然度を表す指標に、「緑被率」があります(参照:Wikipedia)。いつだったか、これをもじって「緑視率」と言ったのは、ぼくの知り合い、NPO法人・向島学会理事長の佐原滋元さんでした。

 

東京有数の木造密集市街地(略してモクミツ)である墨田区向島は、緑地が少なく「緑被率」は大変低い。その代わり街中の路地は、住民の育てた「路地園芸」に溢れている。だから、視野の範囲にある緑の量は決して少なくはない=「緑視率」は高いということになります。ちなみに、江戸っ子は「ひ」と「し」をよく言い間違えるので、それを踏まえた駄洒落でしたが、「持続可能性」云々はさておき、笑いながらも妙に納得した覚えがあります。

 

先日西陣で撮影したこの路地では、味のあるトタン壁の前に、少々地味な鉢植え植物が並び、向島によく似た「緑視率」の高い一角を形作っています。こんな普段着の風景が方々で見られるのも、西陣エリアを歩いてホッとする理由の一つかもしれません。なお、「路地園芸」を主題にしたユニークなアートプロジェクトの事例があるので、また改めてご紹介したいと思います。

2021.07.18
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「吾輩は路地である、まだ名前はない」・・・なんてフレーズをつぶやきながら、雨の中、西陣の一角を歩いていたら、路地の入り口に、こんな表示板を発見しました。同じ通りには、アニュアル・ギャラリーの運営する、ものづくり工房・クラフテリアが入っている「赤レンガ路地」も。この表示版、下部の小さなアクリルプレートには、西陣織かな?、きれいな布の一部らしきものが。路地ごとに布の色も柄も違って、地域性を活かした素敵なアイデアです。あとで知り合いに聞いたところ、路地の名前は地元小学校の生徒が考えたそうで、アクリルプレートは、通り抜けのできる路地とできない路地を区別して、長さの違う2パターンがあるのだとか。実はぼくも東京の向島時代、アーティストを招いた小学校のワークショップをお手伝いした際、子供たちに好きな路地に名前をつけ、そこにふさわしいモノを作ってもらったことがあります。猫がたくさんいる「ネコ路地」に、猫と一緒にくつろげるベンチを贈ったら、住人の方が喜んで使ってくれました。身近な場所に「名前がある/名前をつけてみる」。遊び心のある小さな工夫が、ぼくらとまちの距離を、ぐっと近づけてくれます。

 

2021.06.19
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ステイ・ホームばかりだと運動不足になるので、気分転換も兼ね、梅雨の晴れ間には、たまに自転車で少し遠くまで走っています。前に生活していた東京の下町と似て、自転車移動のラクチンなところは、京都に親しみを感じる理由のひとつ。ただし、すごーくアバウトな比較をすると、巨大な碁盤の目のような京都の街は、全体が北に向かって緩やかな上りの斜面になっているので、その点、どこまで行ってもフラットな東京の下町とは大きく違いますね。さらに市街地は、西陣エリアの辺りまでくると、千本通の方角に向かっても、緩やかな上り坂になっている。自転車なら、軽かったり重かったりするペダルの踏み心地の変化で、そんな街中の微妙なアップダウン事情を、運動しながら自然に体感できます(ダイエット効果はビミョーですけど)。さて上の写真は、大黒町のお寺の塀に自転車を止めて撮影したもの。「瓦土塀」と呼ぶそうで、美観だけでなく、瓦が雨水を弾いて、土壁の強度が下がらない効果もあるとか。写真では右方向が千本通で、塀の下部にある石の幅に注目すると、そちらへと進むにつれ、だんだんと狭くなっていて、道がわずかに傾斜しているのがわかります。