西陣の木は手招きをするらしい。
新大宮商店街を歩いていた時のこと。ふと街路樹を見やると、木から「手」が生えていた。手袋が木にかけられているのだろうか。それにしてはずいぶんと木に馴染んでいる。おいでおいでと手招きされ近寄ってみたが、近くで見ても区別がつかない。裏側を覗いてやっと、手袋だという確信を持つことができた。
もとは単に引っかけられていただけの手袋。月日が経つにつれ、コケだか地衣類だかに覆われ、徐々に木と一体化していく。ああ、これは街と同じだな、と思った。
新しい街にすぐに馴染むのは難しい。それでも、長くいれば否が応でもその街に染まっていく。気付けば、街の一部になっている。
西陣に来たばかりという人も、じきに「西陣の人」になってゆく。そのうち、どこかで手招きをしているかもしれない。西陣においで、と。
京都大学文学部地理学専修 重永瞬
地図とまち歩きが好きな大学生。“西陣の端っこ”(お隣?)仁和学区で生まれ育つ。大学で地理学を学ぶかたわら、まち歩き団体「まいまい京都」でスタッフとガイドを務める。なんでもない街角の記憶を掘り起こしたい。古本とラーメンが好き。