京都では四季を通して様々な行事が行われているが、誰もが忙しない師走の風物詩といえば「大根炊き」ではないだろうか。今では京都各地のお寺で行われている行事だが、その先駆けは西陣に位置する大報恩寺だそうだ。通称【千本釈迦堂】と呼ばれる大報恩寺は、五辻通りを千本から少し西に入ったところにあり、洛中最古の木造建築で国宝に指定されている。応仁の乱の戦火を逃れたものの、本堂の柱には当時の戦乱の激しさがわかる刀傷がいくつも見られる貴重な寺院である。

 

そんな日本有数の貴重な建築物は、西陣の住宅街にひっそりと現れる。西陣にある寺社仏閣というのは往々にしてひっそりと佇んでいる印象があるが、千本釈迦堂は国宝にも関わらずあまりにも謙虚すぎるのではないかと思う。

 

 

2022年12月、いつもひっそりとしている千本釈迦堂が賑わっていた。お釈迦様が悟りを開いたとされる日、千本釈迦堂では毎年12月7日と8日に「大根炊き」が行われる。「大根炊き」とは「だいこんだき」ではなく「だいこだき」というらしい。お釈迦様の梵字を描いた大根を加持祈祷したあと、油揚げと一緒に炊き上げ、病魔退散や健康増進を願い参拝者に振る舞う行事である。筆者はおいしい大根とご利益を目当てに、オフィスから徒歩10分の千本釈迦堂へ赴いた。

 

境内では既にたくさんの人が湯気に顔を火照らせていた。参道に小さな屋台が並び、奥では手づくり市も行われている。大根炊きをいただくためのチケットを購入し、本堂横のテントへ行くと、3人で囲んでも余裕のある大きな鍋が見えた。湯気のたつ鍋の中には大量の大根と油揚げがあり、トングで取ってよそってくれる。器の中には丸い大根が3つと大きな油揚げが1枚。これ一杯でお腹いっぱいになりそうなくらいのボリュームだ。

 

見るからによく出汁のしゅんだ大根は、箸を入れると崩れそうなくらいトロトロに炊かれている。口に広がるのは出汁だけではなく素材の甘さ。大根って甘かったのかと再確認できた。寒くて縮んでいた身体がほぐれるのがわかる。美味しい大根を食べられることそのものがご利益なのではないだろうか。

 

 

本堂の前には炊かれていない生大根が積まれていて買って帰ることもできる。大根の頭に「生」が付いているのを見たのははじめてのことだが、その場には炊かれている大根と炊かれていない大根があるので必然的にそうなったのだろう。生大根には梵字が書かれていて、なんとお守りも付いてくるらしい。せっかくなので、このご利益を家に持ち帰って誰かにお裾分けしようと思い、丸々としたかわいらしい生大根を購入した。「これを財布に入れてると金運が上がりますよ」とお守りもいただいたので、もちろんそのまま財布に入れる。1日でこんなにいくつもご利益をもらっていいのだろうかと思いながら、大根レシピをいくつか考えていた。

 

 

いつもは拝観料のかかる本堂はこの日だけは無料開放している。戦国時代のきっかけにもなった応仁の乱の刀傷も無料で見られる貴重な日だ。参拝にいらしていた方が、お参りをした後にいつもより少しおめかしした本堂に入っていく様子が見られた。中には重要文化財に指定されている仏像彫刻がたくさん鎮座している。鎌倉時代を代表する仏像彫刻家の作品が多数見られ、当時流行していた六観音が全て揃っているのは、大変めずらしいことだそうだ。これらを見るだけでも西陣に来る価値はありそうである。

 

800年もの間、京都に生きる人々を見守り続ける千本釈迦堂。これからも西陣の地にひっそりと佇み歴史を伝えてくれるのだろう。