西陣に突如現れたレコード屋

 

2022年12月、北野商店街の西の端、細い路地をちょいと入った場所に、突如レコード屋さんが現れた。その名も「Second Royal Shop」。「Second Royal Records」というのは京都で2002年に生まれた音楽レーベルであり、HALFBY、HANDSOMEBOY TECHNIQUE、SATORU ONO、アナ、Homecomings、Superfriends、THE FULL TEENZ、Barbara、KENT VALLEY、SAGOSAID、tiger baeなどのアーティストを擁している。そんな音楽レーベルの事務所兼ショップは、もともと京都の街の方――三条麩屋町の方、旧ART ROCK NO.1(京都のレコード屋さん)の下の階――のビルの3階にあったのだけれど、ひょんな事情で引越しをすることに。その移転先が西陣だったというわけだ。西陣にレコード屋さんがやって来たという噂を聞きつけ、ぼくはレコードを物色するべく、Second Royal Shopへと自転車を漕いだ。

 

 

お店の表は全面ガラス戸になっており、外を歩いていると店内の壁に飾られたレコードのジャケットたちがよく見える。なので、べつにめざしていたわけではないけれど、散歩の途中でお店の前を通りかかり、気になってふらっと入ってしまった人も少なくないのではなかろうか。レコードラックの中には、日本のものも海外のものも、新譜も中古もある。他にはカセットテープやCDなども充実している。さらには、Second Royal Records所属アーティストのグッズコーナーもあるので、訪れた音楽好きたちは問答無用でお財布との相談を強いられることになる。ちなみにぼくは、お財布からの忠告を無視して3枚ほどのシングル盤を手に入れた。

 

 

ということで、Second Royal Recordsの代表であり、Second Royal Shopの店主でもある小山内信介さんにいろいろとお話を伺ってきた。

 

 

 

せっかくなら「音楽的なハブになる場所」をつくりたい

 

まず気になるのは、なぜ西陣へ移転したのかということだ。三条という、京都でいちばん買い物客が集まると言っても過言ではない街と、西陣の町では、はっきり言って、歩いている人の数もアクセスの良さもまったく違う。それにもかかわらず西陣へ移転したのは、端的に言うと、人と場所のご縁があったからなのだとか。

 

移転先の新しい物件の候補を探せど、やはり中京区の方は面積が狭い割に家賃の高い物件が多い。それで徐々に範囲を広げていきながら物件を探索している途中、小山内さんが20年近くもお世話になっている美容師さんの紹介で(なんと!)とある物件を知ったのである。それが西陣だったというわけだ。実際に訪れてみて「これはやりたいことができる物件かもしれない!」と思ったが、やはりネックなのは“場所”だ。以前の店舗は交通の便はもちろんのこと、近くにレコード屋も多数あったので、レコード屋めぐりの流れで来てくれた人もいた。そのため、交通のアクセスが不便になる西陣へお店を移すことは不安要素であった。

 

しかし、せっかくならもともとやりたかった「音楽的なハブになる場所」を作ることができる場所に移転したい。インストアイベントでライブやDJをして、アーティストや音楽好きな人が集まったり、レコードを見に来たお客さんがコーヒーやビールを飲めたり、ここはそんな理想の場所が作れる物件だという確信のもと、西陣への移転を決意したのだという。

 

 

 

西陣に移ったからこそ来てくれる人がいる

 

Second Royal Shopが西陣に現れて3ヶ月が経ち、はやくも“場所”という不安要素は解消されつつあるのだとか。というのも、路面に店を構えられているからこそ入ってきてくれるお客さんはやはり多い。たとえば、フラッと入ってきたジャズが好きな男性に「おすすめは?」と尋ねられたのでHALFBYをおすすめしてみると、めちゃくちゃ気に入って通ってくれたり。たとえば、若いカップルが「レコードって良いね」とジャケ買いをしてくれたり。たとえば、高校受験に疲れた中学生の女の子は、「レコード屋ができたらしい」と聞きつけてお母さんとふたりで来店し、「レコードプレーヤーはないんですけど」と言いながらくるりのレコードを買っていってくれたり。ビルの3階のお店では出会えなかったであろうお客さんがよく来てくれるという。

 

実はSecond Royal Shopの隣には「蔵」と呼ばれる建物がある。その名のとおり、実際に倉庫だった建物を改装した物件で、頻繁にイベントが開催されている。この「蔵」やSecond Royal Shopを含んだ場所を運営しているのが、何を隠そう「つれづれnishijin」というチームだ。つれづれnishijinは7軒の木造賃貸をリノベーションし、店舗や工房と住居を兼ねることができる「職住一体」の物件を提供している。「蔵」もSecond Royal Shopもこの7軒のなかのひとつで、ぼくが訪れた日は「蔵」で台湾料理のイベントが開催されており、つれづれnishijinのオーナー自らキッチンに立って料理を振る舞っていた。

 

その「蔵」で、DJとバーのイベントが定期開催されると聞いた時には、「西陣で?蔵で?DJ?バー?」と驚いた。仕掛けたのは、もちろんSecond Royal Records。レーベルに所属しているBarbaraというバンドのメンバー・MARUさんはバーテンダーをしていた経験があるということで、お酒とDJのイベントを開催するに至ったのだとか。気になるイベントのタイトルは「OUR LOCAL」。レーベル所属アーティストがお酒を出したり音楽をかけ、彼らのアーティスト写真を撮影している方がイベントのフライヤーを作り、それを店の隣でやる。これぞ「OUR LOCAL」ってか。回を重ねるごとにフリーマーケットを取り入れてみたり、西陣の飲食店を呼んでみたり、近くのカフェと同時多発的に、それこそフェスのようなイベントを……という目論見もあるみたいなので、今後のSecond Royal Recordsの一挙手一投足から目が離せない。