船岡山の秘密基地オフィス

 

町家暮らしの唯一の欠点は1階の部屋に日光が入らないことだ。三軒長屋で家の間隔が狭い我が家では、せっかく晴れていても1階にいる時は夕暮れ時のように日光を感じることがない。仕事が午後からのゆったりしたある日、外へ出てみると強すぎない太陽の光と涼やかな風を感じる秋らしい気候だった。これは外に出ないともったいない。やらないといけないこともあるけれど……そうだ、外で作業しちゃえばいいんじゃない?我ながら名案だと、すぐに荷物をまとめて自転車で向かった先は船岡山。

 

季節の変わり目には、ふとした匂いに季節の移り変わりを感じることがある。船岡山に着くと、秋特有の甘い香りが出迎えてくれた。つい何度も立ち止まり空気をいっぱいに吸いながら歩く。金木犀の木に囲まれた建物が公園事務所であり、STUDIO MONAKAという建築事務所が入っている場所だ。公園事務所で椅子の貸出をしていると聞き覗いてみた。

 

 

事務所の方に声をかけるとsnow peakの椅子を手渡してくれた。
「オススメの場所はありますか?」
「やっぱり頂上からの眺めは最高ですよ。あと、この事務所の前の木漏れ日もオススメ。」
たしかに……

 

 

「ひとまずグルっと歩いてみます」と船岡山を探検することに。事務所の方のオススメの頂上へ向かう。頂上へ上がる道すがらには脇道という名の誘惑がたくさんあり、この道を進むとどこへ行くのだろうとワクワクする。

 

 

頂上からの眺めはやはり最高だった。京都市内を一望しながら仕事をすると、何か大きなことができる気分になるかもしれない。大きな決断をするときや気分をスカッとさせたいとき、ただただボーっとしたいときには頂上がオススメ。

 

 

改めて船岡山を歩いていると「こんな場所あったの?」というスポットがいくつか見つかる。もう自分がどこを歩いてるのかわからなくなった頃、緑に囲まれて木陰になっているベンチを見つけた。snow peakの椅子を広げて、ベンチをデスク代わりにすれば自分だけの秘密基地オフィスの完成。いい大人になった今でも秘密基地にはトキメクもので、誰にも知られたくないが故に記事にするかどうかを迷ってしまった。

 

 

ここまで来て目的を忘れかけていたのだが、一応作業をしようと思って出てきたのだから、パソコンとポケットWi-Fiを出してみる。葉の擦れる音や鳥の鳴き声、誰かが練習している三線の音がBGMの秘密基地オフィス。ときおり空を仰ぎながら、とても捗っているとは言えない仕事に目を向け、行きしなに買ったLaughterのコーヒーを飲む。日々に充足感を感じているはずなのに、自然の中にいると満たされていなかった部分があることに気付く。一見無意味なような時間が愛おしく、ここを離れがたいと心が駄々をこねていた。

 

 

打ち合わせ時間まであと30分というところで諦めて立ち上がり事務所へ向かう。自分がどこにいるんだかわかっていなかったが、意外と事務所から出てすぐのところにいたようだ。散歩しているおじさんに話しかけられ、「いいところですね、船岡山」と伝えると「いいところだよ、ありがとう!」という答え。最後にそのおじさんに会えたことで「また来よう」という気持ちが大きくなった。

 

ふと思い立った船岡山の青空ワーク。つい記事にしてしまうほど、想像以上の居心地の良さだった。あまり人が増えてほしくないというジレンマも抱えつつ、是非たくさんの方に利用してほしい。