垣根越しにレモンマートル

 

私の住む町家の近所には不定期に出現する植物屋がある。何曜日に開いているのかもわからないし、何時に開いているのかもわからない。一つわかることは、その植物屋が【さとう植物店】という名前らしいことだけだった。

 

私がさとう植物店と出会ったのは、仕事の合間に自宅に戻った時のこと。明るい時間に帰宅することが少ないので、新鮮な気分で家に向かっていた。近所の町家に、いつもは見かけない暖簾が目に入り、開けられた窓から中を覗く。明るい木目調の開放感のあるお部屋に植物や籠がぶら下がっているのが見えた。その場所は、石川奈津子写真事務所と呼ばれるオフィスで三上家路地の中に位置する。3ヶ月に一度「環の市」というマルシェを開催しているので出入りしたことがある人も多いのではないだろうか。

 

町家のお店というのは、少し敷居が高いように感じて入りにくいことも多いのだが、例に漏れずさとう植物店も暖簾をくぐるのに若干の勇気がいる。チラチラ覗きながらお店の前を行ったり来たりしていたら店主が出てきてくれた。町家のお店というのは、入りにくさと比例して店主が気さくで優しいことが多いのだが、例に漏れずさとう植物店の店主もそうであった。

 

玄関先に置く植物がほしいと言ったら、気の巡りがよくなるレモンマートルをおすすめしてくれた。葉を乾燥させれば香りを楽しめるとのことでお得感に弱い私は即決。店主が私の自宅の玄関に合わせてレモンマートルを設置してくれ、二人で「いいね、いいね」と言いながら眺めたのが最初の思い出である。

 

 

それから数日後、夕方に帰宅すると店主が私のレモンマートルにお水をあげてくれていた。「そろそろかなぁと思って〜!」と明るく言う店主に、こんなご近所付き合いがあるのかと感動を覚える。岡本一平の作詞した「隣組」にこんな歌詞があるのを思い出した。

 

とんとん とんからりと 隣組
あれこれ面倒 味噌醤油
御飯の炊き方 垣根越し
教えられたり 教えたり

 

私の垣根越しの面倒にレモンマートルが加わった町家暮らし2年目の秋。
ちなみに、さとう植物店は今年の12月までしか出現しないらしい。気になる方はお早めに。