彩りに溢れた日常を
京都、特に西陣は、日常に彩りを添えてくれる天才だと思う。ふらっと散歩に出かけ、自分の思うままに路地を歩き回っているだけで、パン屋に辿り着くことができるし、心身ともに休ませてくれる銭湯に辿り着くこともできる。その中でも特に、どの路地を選んでも見つけることができる“お花屋さん”は、景色に文字通りの彩りを与えてくれるだけではなく、思わずスキップしたくなる気持ちにさせてくれる。そんな気持ちにぴったりなパンを片手に、今日もお散歩に出かける。
どの路地を通っても見つけることができる“お花屋さん”。「西陣にそんなにたくさんのお花屋さんがあったっけ?」と、一度は西陣に訪れたことがある人はそう思っただろう。もちろん、かわいらしい個人商店のお花屋さんも西陣にはいくつかある。しかし、西陣を訪れたら目にしないことはない“お花屋さん”とは、西陣の町家や家の住民が丁寧に手入れをしている家の前の花壇のことである。季節に合わせてお花を置く“お花屋さん”、小さいお花が好みの“お花屋さん”、桃色が好きな“お花屋さん”と、そこに住む人によって花壇の特徴はさまざまである。しかし、限られた空間の中にそれぞれの好みを詰め込み、毎日手入れを欠かさないという小さな気遣いが積み重ねられていることは、どの“お花屋さん”も変わらない。まさに、この共通点こそ、私が西陣を好きな理由だ。
そんな風景に気持ちがだんだんと明るい色で染まっていく。その気持ちをさらに虹色に染めてくれるのは、プチメックのパンしかない。これぞ、トキメック。今回、1つ目に紹介するのは、7月の新作の「りんごのタルトフィヌ」。フィユタージュ生地(フィユタージュとは、フランス語で折り込みのパイ生地のことをいう)に、りんごのスライスとジャムがたっぷり載った逸品。
まるで上品なピザのようなかたち。パクッと先っぽからいただくと、りんごのジャムが染み込んだ柔らかな生地の舌触りが心地いい。そして、少しずつバターの香ばしさが口に広がり、それを追うようにシナモンの香りが広がっていく。バターの香ばしさをシナモンの香りが追い越したとき、なぜか懐かしさのある上品な甘さのプチメックらしいパイとなる。この商品は、創業者がフランス渡航時に感銘を受け、自店を開く際には必ず商品に加えようと思ったものだそうだ。そんな創業者の思い出深い一品が満を持して、この7月に登場した。自宅で食べる際は、パイを温めて、その上にアイスクリームをトッピングするのがおすすめらしい。熱々のパイ生地に、溶けて甘みを増したアイスクリームが染み渡っていく。そんな情景が浮かぶ。2個目を買わずにはいられない。
続いて紹介するのは、「テ・オランジュ」。7月の新作ではないが、まだ夏が始まったばかりなのに、照りつける日差しにうんざりしてきているみなさんにおすすめする。私にとっても、夏を乗り切るための必需品となっていると言っても過言ではない。テ・オランジュは、サンドイッチとしても人気のプチパン・オ・セーグルに、紅茶クリームとオレンジピールが挟まれている。初夏の風が、紅茶とオレンジの爽やかな香りを運んでくれる。太陽の光に照らされて、オレンジ色のカラーガラスのように透き通るオレンジピール。その背景には、緑のタイルと青々と生い茂る2軒目の“お花屋さん”の花壇。オレンジ色と緑のコントラストに惚れ惚れする。硬めのパン生地に、クリームにすぐには辿り着けないじれったさを感じながらも、少しずつ紅茶クリームの上品な甘さが広がっていく。そこに、苦さをアクセントとして加えてくれるオレンジピール。今年も、暑い夏を乗り切れそうだ。
日常に彩りを添えてくれるヒントは、日常の中にあるのかもしれないと思った1日だった。私は、パンと“お花屋さん”のお花があれば、トキメック日々を過ごすことができる。そんな町こそが西陣だ。みなさんにも、日常に彩りを添えてくれるものや場所はありますか?