“らしさ”全開

 

 

 ここ最近は、日差しは暑いが、風は涼しい。太陽の日差しとかくれんぼをしているかのように、日陰に隠れていると過ごしやすい日々が続いている。5月は、暑い暑い夏に耐えるためのちょっとした準備期間だ。そんな季節に、“トキメック”パンを片手に、外に出ないわけにはいかない。2つのサンドウィッチを持って、階段を上がる度に太陽には近づいてしまうが、太陽とのかくれんぼの隠れ場にはぴったりな船岡山に行こう。

 

 

 船岡山は、標高は112メートルほどで、散歩がてらに京都の街を一望するのには最適な山である。また、船岡山は、桓武天皇が平安京遷都を決めた「京都始まりの地」とも言われていたり、現在は船岡山の麓で、地域の人が集まるマルシェが行われていたりと、京都や西陣になくてはならない存在となっている。そんな京都の母なる山のてっぺんを目指して、まずは少し急な階段を登る。段数がとても多く、軽やかだった足がだんだん重くなってくる。これは、サンドウィッチを食べるための試練なのだろうか。しかし、そんな時は、後ろを振り返ってみると、景色の美しさに息を飲むのと同時に、その景色に背中を押され、次の一歩が自然に出てくる。美しい景色に助けてもらいながら階段を登り終えると、ピンクのかわいらしいツツジたちに出迎えられて、爽快感で体が満たされていく。もう少し奥に進んでみると、京都を一望することができる山頂にやっと到着することができた。たったの15分ほどで山頂には到着できるが、“トキメック”パン(ここまでの連載をお読みいただいた方ならお気づきかもしれないが、「ときめき」と「プチメック」をかけあわせ、パンを愛するなんとも言えない気持ちを言語化した言葉が「トキメック」なのである)を持っていると、すぐに食べてしまいたいけれど、山頂でゆっくり食べたいという葛藤をしながら登る羽目になるため、山頂に着くまでの時間が非常に長く感じる。そんなわけで、ひとまず山頂からの景色に感動しつつも、その感動はパンをいただいてから存分に味わうとして、まずはお腹を満たすことが最優先だ。具材が溢れんばかりに出ているサンドウィッチを持っていたら、“花より団子”ならぬ“花よりパン”を実践するしか選択肢はない。太陽に見つからない日陰を見つけたら、そこはもうかくれんぼの隠れ場ではなく、パンと景色の両方を堪能することができる私だけの特等席だ。

 

 

 今回紹介するプチメックの5月の新作は、創業25周年を記念した商品の第3弾である。第3弾の商品として、これからの暑くなる季節らしく爽やかだが、ピリッとした辛さが癖になるエスニックなサンドウィッチを2種類紹介する。それは、プチメックのサンドウィッチの中で絶大な人気を誇るベトナム風サンドと、心斎橋店オープンを記念して発売された商品を復活させたエビチリサンドだ。

 

 

 最初にいただくのは、ベトナム風サンドである。パンを手に取った瞬間のもちもちっとしたチャバタの手触りに愛おしさを感じる。チャバタとは、しっとりした食感が魅力的なイタリア発祥のパンである。これでもかというほど押し込まれた具材がこぼれないように、しっかりとパンを手で掴んで口に運ぼうとすると、風にのって爽やかな香りが私の嗅覚を刺激する。具材としてなかに入っているミントやパクチーの香りだろうか。そんな爽やかな香りをお供に、ガブリといただくと、豚肉のナンプラー炒めときゅうり、玉ねぎ、レタスのみずみずしさが調和しながら、旨味を舌に置いていく。そこにチリマヨネーズの旨味が重なり、最高な組み合わせの旨味の層になる。このピリッとしたチリマヨネーズの辛さが癖になり、食欲は止まらない。これだけで終わらないのが、このベトナム風サンド。なんと、爽やかな香りを届けてくれるメンバーに大葉も含まれていたのだ。大葉は、香りだけではなく、たくさん入っている具材を調和させ、より深い味わいにしてくれる。ミントやパクチーに負けない大葉の存在感。恐るべし私の大好きな大葉。

 

 

 つづいて、エビチリサンドをいただく。このエビチリサンドは、2020年11月にプチメックの心斎橋店がオープンした際に発売した商品を、味も新たに期間限定で復活した商品である。プリップリのエビチリと、ツヤッツヤのゆで卵がパンの隙間からひょっこり。そんな具材たちを1つ残らず味わうために、こちらも大きな口を開けていただきます。想像していたよりも、しつこくないシンプルな味わいに驚く。トマト感のしっかりしたチリソースを和えた海老のエビチリは、存在感は大きいものの、他の具材の邪魔をしない。茹で卵、レタス、白髪ねぎと一緒になって初めて美味しさを主張してくる。その具材の美味しさをパンで包み込んで全てセットで口に入れたとき、美味しさの全盛期を迎える。いつまでも全盛期を味わっていたい。しかし、全盛期は全盛期であって、永遠にその時期が続くわけではない。いつか終わりが来ることがわかっているからこそ、全盛期はより輝くのだろうか。

 

 

 やっとお腹は満たされた。最後に、ちゃんと頂上からの景色を眺めて帰ろう。ここ船岡山からは、京都タワーや奈良県の生駒山まで一望することができる。建物の高さ規制がある京都だからこそ見える景色。そんな京都“らしさ”を独り占めすることができる場所が身近にある西陣。プチメックファンの私としては、そんな風に、プチメックのパンが西陣“らしさ”の1つになることを願っている。