第8回

自分を愛するということ(あるいは幸福について)

 

佐々木ののか 著

 

 

コロナ禍に入り自由に旅行に行きにくくなってから、仕事のついでに近場のホテルをちょくちょく利用するようになった。これまで大きな催事が終わるたびにどっと疲れてしばらく復活できなかったのだけれど、疲れる前、ぴんと神経を張り詰める前にいったん休憩しておくことでリラックスした気持ちで仕事にのぞめ、その後の回復も早くなり、すぐ次の仕事に取り掛かれるようになったような気がする。それは、経験や年齢とともに仕事のペースがつかめるようになってきたということなのかもしれないけれど、わたしはどこか、「自分を愛する」ということに繋がっているような気がしている。

 

自分を愛するということはどういうことか。ふだん、わたしは「愛」ということすら意識することがほとんどないので一言でいうのはとても難しいのだけれど、おそらく人それぞれいろんな形がある「愛」のひとつが、自分が傷つくことを引き受けること、ではないだろうか。
たしかに若いころのように、生活すべてが止まってしまうほど傷つくことはなくなってしまった。傷つくであろうということを、事前に避けている部分もあるかもしれない。でも、いつの頃からか、生きているとどうしても遭遇してしまう日々の不快な出来事や小さな落ち込みに、「わたし、今すごく傷ついた!」と素直に言えるようにもなった。それは忙しさから来る相手への諦めでもあり(相手を変えようとすることはとても時間がかかり、パワーのいることなので……)、しかしまた、自分への信頼感でもあると思う。何かに疲れて動けなくなってしまう自分を責めるのではなく、疲れて動けなくなってしまう自分のことも引き受ける。たまには子育てからも仕事からも離れて一人でのんびりしたい、という弱い自分の小さな願いを叶えてあげる。それもひとつの、愛なのかもしれない。なんでも自分で引き受け、癒してしまうことが幸福かどうかはわからないけれど。

 

今回紹介するのは、文筆家の佐々木ののかさんの新刊『自分を愛するということ(あるいは幸福について)』。著者の身の回りのさまざまなキーワードとご自身が読んだ本で出合った言葉から、自分を愛するということを静かに、そして深く探る一冊。自分の傷や弱さと向き合うことはとてもしんどい。しかし、著者はとことんまで自分の心の内、これまでの行動を振り返り、思考する。それはとても負荷のかかることであるはずなのに、目次に並んだキーワードの数々を見ていると、世界のありとあらゆる隙間を満たす小さくあたたかな愛が並んでいるかのようで、愛しいなあとうれしくなる。もともと著者の文章が好きなわたしは一気に読んでしまったけれど、ぴんときた言葉、気に入った章から毎日少しずつ読むこともできる、お守りのように大切な一冊になってくれるエッセイ集だと思う。

 


★なかむらさんが選書してくださる宿泊プランを販売中

 

 

西陣に位置するKéFU stay&loungeで数量限定の宿泊プランを販売中です!

マヤルカ古書店のなかむらあきこさんが、ひとりひとりに合わせて選んでくださる本と、pop.pop.popさん製作のブックラッチが付いた数量限定の特別プランです。

 

旅に合わせた一冊の本とpop.pop.popさんの可愛いブックラッチと共に、西陣から始まる本の旅はいかがですか?

 

★選書プランのご予約はこちらから。

 

★pop.pop.popさんの記事もご覧ください