西陣にまつわる
人々による
ウェブメディア

5/17

西陣にまつわる人々が、毎日綴るリレーコラムCOLUMN

2022.05.02
Written By

二度と行けないあの店で:西陣亭

人間には大きく分けて2種類あると聞くが、僕は、いわゆる「町中華」と呼ばれる中華を好む種類の人間であるようだ。満漢全席のような高級中華でもなく、香辛料がふんだんに使われるいかにも本格的な中華でもない。おじいちゃんが1人でフライパンを振っている中華だ。まさに日本的な味付けがなされている中華屋で2〜3品の料理と瓶ビールをいただく。これぞ「町中華」を堪能する極意なのである。

今出川通りから智恵光院通りを南下していると、左手の方に、伝説の中華屋があった痕跡が見えてくる。その名も「西陣亭」。日に焼け薄れてしまった黄色いひさし(キノピーというらしい)にしっかりと赤い文字で店名が記された西陣亭。多くを語らないそのたたずまいこそ、誰もが憧れる中華の名店の姿そのものだ。

しかし、僕が西陣亭の存在を知ったのは、亭主が老齢のため閉店となった後だった。僕は西陣亭の歴史の痕跡を眺めることしかできない。店内に満ちたニンニクの香り、フラパンの上で食材が踊る音、グラスに注がれた黄金の酒に浮かぶ白い泡、炒められた米たちのツヤ、常連客たちが交わすどうでもいい会話。これらの小さな幸せを、僕は味わうことができない。

人間には必ず終わりがあるように、永遠に続くお店はない。明日、大好きなお店に行ってみると、そのお店はなくなっているかもしれない。だからこそ僕は、幸せを受け取ることができる間に、大好きなあのお店へ二度と行けなくなる前に、お店を、人を、京都をたくさん愛さねばならない。

大成海

ライター大成海 オサノート

京都在住の大学生。21歳。音楽(聴く/弾く)、映画、絵画、本、服、眼鏡、珈琲、酒、町中華、家具・建築などを好む。いちばん愛おしい映画は『地下鉄のザジ』。いちばんかっこよい映画は『淑女は何を忘れたか』。