第1回
京都に建築基準法は馴染まない
※写真はイメージです。
「京都に建築基準法は馴染まない。」
これは私の私見だ。
私は、20年程度の期間にわたり、一貫して不動産に関連する仕事をしてきた。
不動産の仕事は奥が深い。
それは、不動産という仕事が、住まいや商い、投資や金融、様々なことに関連してくるからだ。また、不動産に関連する法律などの基準や規制を本当の意味で理解して不動産を扱っている人は、不動産業者と言われる人の中でも、実は数少ないと私は思っている。
それだけ、多種多様な法律などの基準や規制が絡んでくる。
今まで、日本中の様々な場所で、様々な不動産を見て仕事として携わってきた。そして、京都で初めて扱わせてもらった不動産を通じて得た経験から、「京都に建築基準法は馴染まない。」と感じ、その後も京都ならではの情報に触れ、今もそう思っている。
しかし、これを読んで、いきなり「京都に建築基準法は馴染まない。」という話しをしても、建築基準法に馴染みのない方々には、ピンと来ないと思う。
建築基準法とは、戦後間もない昭和25年に制定された法律で、ざっくり言えば、「建築物の敷地(土地)や建物に関する最低限の基準を定め、国民の生命、健康、財産の保護を図ることを目的とする法律」であり、不動産を扱う上では欠かせない法律である。
国内の全ての不動産は、建築基準法による一定の基準のもとに利用、もしくは活用されている。
このことを頭の片隅に入れておいていただきたい。
私が京都で初めて扱った不動産は西陣の上七軒にあった。
その土地は、京都ではお馴染みの「うなぎの寝床」のような形状の土地。
土地の間口に対して、奥行きが長く、土地の図面を見て、「え!?この奥行きだと50m走できるんじゃない?」と、思わず呟いた。
土地の形状は、間口が狭く、奥行きが長い。そして、その土地上には古い建物があり、道路に面して玄関が一つあった。
土地の端っこから奥に向かって狭い通路があり、奥に数世帯の長屋が建っていた。
奥に建っている長屋も明らかに古い建物だった。
京都でよく見る光景だ。
先ほどざっくり説明した建築基準法という法律の規定では、原則、建物は道路に2m以上接している敷地でしか建築できない。
つまり、道路に2m以上接している土地であるか否かということは、不動産を扱う上で非常に重要なことになる。
そして、建築基準法では、道路についてもいくつかの定義があり、一概に道路と言っても、建築基準法の定義に当てはまる道路に2m以上接していないと、原則、建物の建築はできない。(見た感じは普通の道路であっても建築基準法に定義された道路ではないこともあるので、注意が必要である。)
そのなかに、建築基準法第42条2項道路というものがある。
この道路の定義は、ざっくりと分かりやすくいうと、建築基準法制定時(昭和25年)に道路に対して建築物が立ち並んでいて、「特定行政庁が指定した」もの、である。(特定行政庁とは、所謂、行政のこと。)
私は、先ほどの土地を現地で見たときに、その土地の端っこから奥に向かっている狭い通路は、建築基準法第42条2項道路だ、と思った。なぜなら、通路に面して数世帯の長屋が建っていて、明らかに建築基準法制定時(昭和25年)より以前から存在するであろう古い建物だったからだ。
もちろん行政で確認しないと判断はできない。実際に行政に確認したところ、その狭い通路は建築基準法第42条2項道路に指定されていなかった。
それはおかしい、通常ではあり得ない。
そう思い、役所の人に問いただした。
「なぜ、この通路は建築基準法の第42条2項道路ではないのですか?」
返ってきた答えに驚いた。
「京都には、こういった『うなぎの寝床』のような形の土地が多いんです。そして、そのほとんどで道路に面した建物に土地の所有者(地主)が住んでます。通路の奥の長屋には地主さんから土地を借りて建物を建てた人たちが住んでいます。だから、奥の長屋に通じる通路を建築基準法の道路にしてしまうと、地主さんの土地の一部が道路になってしまい、建築できる土地が小さくなってしまう。(道路上には建物を建てれないため。)また、ただでさえ京都の土地は狭い間口が多いのに、土地の間口を道路に取られたら、もっと間口が狭くなってしまう。だから、うちは『特定行政庁として、建築基準法の道路に指定できない』んです。ご存じの通り、建築基準法42条2項道路は『特定行政庁が指定した』道路ですから。」
つまり、建築基準法の道路としての要件は満たしているのに、行政が地主とのパワーバランスを考慮して、「特定行政庁として建築基準法の道路に指定していない」というのだ。
そのおかげで、奥で土地を借りて長屋を建てている人たちは、現行法では建て替えすらできない。
建築基準法は、国民の生命、健康、財産の保護を図ることを目的とする法律であるのに。
おそるべし、京都の地主のチカラ。
「京都に建築基準法は馴染まない」と思った。
他にも、京都ならではのエピソードがあり、今でもそう感じているが、それはまた別のお話しのときに。