2021.04.18
Written By重永瞬
私は資料館や博物館のたぐいがたまらなく好きだ。薄暗く、静かな展示室の中に、それ自身は何も語らない“モノ”がたたずむ。はるか昔からほんのひと昔前まで、さまざまな時間がそこに詰め込まれている。資料の保存のために管理された温度や湿度すらも心地いい。私は資料なのかもしれない。 “モノ”を展示する資料館は、それ自体も歴史的な価値を持った“モノ”である。中でも私が好きなのが、西陣の一角にある「京都市考古資料館」である。この建物は、建築家・本野精吾の設計で、大正3年に「西陣織物館」として建てられた。西陣織会館の前身である。 そののっぺりとした姿は、ウィーンにある「ロースハウス」というモダニズム建築によく似ている。ロースハウスの設計者、アドルフ・ロースは「装飾は罪悪である」という過激な言葉で知られ、装飾のないシンプルな建築を好んだ。西陣織物館も、その流れの影響を受けている。 西陣織物館は、西陣の中でも富裕な生糸問屋が集まっていた「千両ヶ辻」のそばに建てられた。西陣織と言えば、華美を極めた色鮮やかな高級織物である。その西陣織が、装飾をそぎおとしたストイックな建物に展示されている。そのギャップが面白い。
京都大学文学部地理学専修重永瞬
地図とまち歩きが好きな大学生。“西陣の端っこ”(お隣?)仁和学区で生まれ育つ。大学で地理学を学ぶかたわら、まち歩き団体「まいまい京都」でスタッフとガイドを務める。なんでもない街角の記憶を掘り起こしたい。古本とラーメンが好き。