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西陣にまつわる人々が、毎日綴るリレーコラムCOLUMN

2021.07.06
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高校に入った年の夏、父が「町内で撮影するから牛乳屋の看板を3日程外させてくれと言ってきたわ!」。その話を聞いた時、何のことかあまりピンと来なかったのですが、その日が近づくにつれとんでもない人がロケにくるということがわかりました。その年をもって引退するという山口百恵さんが最後の映画「古都」の撮影が町内で行われるというのです。京都が舞台となった川端康成原作の物語、主人公の家の前のロケ地としてうちの町内が選ばれたようです。
それからは町内の同級生と授業をいかにさぼって、どこでどう見るかを必死で考えました。撮影は2日間で確か土・日曜日の朝であったと記憶しており、土曜日は学校に行かず、ロケ場所となった家の真正面で待機しました。引退間近の百恵ちゃんはもちろん、ロケ2日目の早朝は道路に塩を撒いて煙幕を焚き冬の朝もやを作り出す様子など、映画の撮影という見たことも無い現場を目の当たりにしてとても興奮したことが思い出されます。

ロケ場所は今では見る影もありません。作品中の古い京都の町並みはどんどん失われつつあります。けれど映画の中にわずかに映る実家やその周辺の景色はぼくの幼い頃の西陣の記憶そのものです。物語には祇園祭も描かれており、毎年この時期になると懐かしく思い出されます。

岡田健

光都紙工有限会社 代表兼デザイナー岡田健

西陣の南東?の牛乳屋の息子として生まれ育って五十数年、今は極小印刷会社の代表取締役兼デザイナーです。ウクレレとコーヒーが好きです。