2022.12.05
Written By黒田健太

理解できぬ符号それらの偶然の一致。
奇跡を見逃すことが多くなったのかもしれない。荷物の配達をお願いすれば大抵は到着日に届くし、道案内のアプリケーションを使えば目的地への最短距離、最速時間でルートが明示される。こうやって計画的に目標を達成しスマートに人生を生きることができる。
現在、僕は西陣のゲストハウス/カフェで働いていて、多くの人が滞在していく。今、目の前でお茶しているご婦人方を見て、人と人とのおしゃべりはスマートさとは全く違った性質を持つと思う。
一つの話題を何度もループする。話していた内容が突然別の話題へと導かれ、もうその時点では何を話していたのかは分からなくなっていく。
予測不可能なやり取りの中で、時折顔をパッと明るくして驚きの声をあげる。あー、そうやったんかぁ。と頷く。それは話題同士の偶然の一致、これまで生きてきた何十年もの人生で不可解だった物事の糸が解かれる瞬間のように思えた。おしゃべりはいろんな時間を遡って、また未来へと渡って繰り広げられている。
毎回、昼下がりに大海へと漕ぎ出したご婦人方の船は夕方ごろに陸へとあがって解散する。(その解散の合図は毎回見逃しているためはっきりとはしないが、何か落ち着きどころがあるはずだ。)
僕は注文されたコーヒーをテーブルへ持っていく時に少しだけ会話の渦中へと誘い込まれる。そしてあっ!という瞬間に立ち会うことがある。それはどうでもいい時間、どこにでもあるような時間だが、その瞬間確かに僕とご婦人たちは大海の中で偶然出会っている。そしてそれはとても幸せなことだと思う。