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西陣にまつわる人々が、毎日綴るリレーコラムCOLUMN

2022.05.22
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オサノートという名前は西陣織の道具、筬(おさ)ノート(音)からきているそうだ。
一年間書いて最後の今回は西陣の音について書きます。

僕はたしかに音を出しに西陣に来た。90年代の中頃、西陣の染物屋の二階で所謂セッションをするためにギターを持って初めて西陣に来たのだ。
憶えいるのが、ギターと打ち込みの音と混ざった染物の機械の音。
演奏が終わり、うどん屋の出前で丼を頼んだ。
その場所は、たぶん今住んでいるところの近所なのだろうが染物屋もうどん屋も、その時録音した音源もいまだに見つけられない。

数年後、真夏の暑い日にまたギターを持って西陣を訪れた。今度は募集に来た人と演奏をするためである。
ドラマーでヴォーカリゼーションというものにも興味があるというその巨漢の男の部屋で机やグラスを叩いた音にギターをつける。
続いて巨漢から奇声。ヴォーカリゼーションというものなのだろう。
すぐに近所からの苦情で隣の神社に追い出され、そこで蚊に刺されながらギターを弾いた。羽虫の音と木のパーカッションとギターの音。

僕だけでなく、90年代の鬱屈した若者(一部だろうが)は即興で音楽を演奏する事を好んだ。混沌とした中になにか方向性が見えるのが面白かったのだと思う。
僕自身はその後、演奏はあまりしなくなり、CDのジャケットやチラシなどに絵を描いていた。

来週、東京に行く。そんな感じでミュージシャンになった友人の音楽スタジオを手伝うつもりなのだ。
楽器や機材は運び込むが、具体的になにをするのか全く考えていない。
ただ、そこで作られる音楽は綺麗にパッケージされていくとしても、染物屋や神社で出た音と本質的にはあまり変わらないと思っている。

読んでくれてありがとうございました。
また、西陣のどこかでお会いしましょう。

景井雅樹

版画家景井雅樹

京都の版画工房で銅版画を始める。 2006年頃より、毎日の出来事をノートに青いボールペンで描く絵日記形式の作品を作り始める。 一日1ページで現在4000ページほど。まだ毎日描いている。 コーヒーと自転車と音楽の愛好家。