2021.10.19
Written By山ノ瀬亮胤
《 金継ぎ 》
ガッチャン!!…お気に入りの湯飲みをやっちゃった。つい、手を滑らせて。手を使う仕事なのに案外手先の行方には無頓着な自分。
サスティナブルやSDGsはよくわからなくても、私たちは受け継がれた文化を遺すことの大切さを知っています。それは手の温もりが感じとれる物に出会った時に、強く湧き出てくるようです。
伝統工芸には「金継ぎ」という修繕技術があり、欠けた陶磁器などを漆で接着して継ぎ目に金を差し、その割れた痕跡でさえ美に昇華してしまうと云うもの。さっそく若き金継師に頼んでみました。修繕が完成した湯飲みは、あえて“筒茶碗”と呼びたいくらいに雰囲気が上昇。まるで葉脈を追うような繊細な仕事が素晴らしい。
西陣北の北野天満宮は梅が有名で、白梅町という地名も残るくらいに、古から京都人は梅を愛しみます。どうです?この茶碗のうっすらとした釉薬の間を縫う金継ぎの線が、まるで梅花を散らした小枝のように見えませんか。
ところで私の作る眼鏡も、十数年後にはメンテナンスで工房に一時里帰りします。それまで持ち主に育てられた味わいはとても美しいものです。馴染んだ痕跡を残し必要な修繕を施して、また本来の持ち主の元に戻って行くわけです。この次に会う時には時にはどんなになっているのだろう…愉しみです。
眼鏡制作者・現代美術家・ソシエテヌーベルリュネト視覚研究所々長山ノ瀬亮胤
京都市上京区在住。眼鏡制作者・現代美術家・ソシエテヌーベルリュネト視覚研究所々長。芸術~工芸に拡がる独自分野の構築で国内外より評価され欧州ハプスブルグ家御用達。マスメディアでの出演・取材多数。豊かな江戸庶民文化と職人の心を紹介している。