2021.10.15
Written By重永瞬
街角に古写真が吊るされていた。石畳が敷かれ風情ある町並みが広がる西陣大黒町界隈の一角だ。ちょうどこの日は町内の行事があったようで、近くに設けられた舞台で歌や仮装などが行われていた。会場には屋台が出され、近隣の介護施設の人たちも集まっていた。もう2年ほど前のこと。コロナ禍以降はすっかり見られなくなった光景だ。
写真には昭和の京都の姿が写されていた。町内の人から集めたものだろうか。きっとここに集まっている人たちにとっては、若いころを思い出させる懐かしい風景なのだろう。二条の駅前にあったという櫓を持った旅館や、まだ街路樹も十分に育っていない堀川通など、よく知る場所の知らない風景に、私はしばし足を止めて見入っていた。
古写真は場所の記憶の饒舌な語り部だ。たとえモノクロであろうとも、それは色鮮やかに当時の光景を伝える。視覚だけではない。音も。匂いも。古写真の語りは、やはりその場所で見てこそ一番伝わってくる。私はもっと、街角に古写真が増えてほしい。今まさに自分がいる場所の、ほんの少し昔。それが分かれば、まち歩きはどれほど楽しくなるだろう。
京都大学文学部地理学専修重永瞬
地図とまち歩きが好きな大学生。“西陣の端っこ”(お隣?)仁和学区で生まれ育つ。大学で地理学を学ぶかたわら、まち歩き団体「まいまい京都」でスタッフとガイドを務める。なんでもない街角の記憶を掘り起こしたい。古本とラーメンが好き。