西陣の宝箱

 

 

 今出川通りと千本通の交差点に何気ない様子で位置する喫茶静香。千本通りを下っていると見えてくる“Shizuka”の文字は、古き良き喫茶店であることを感じずにはいられない。赤を基調にした外観は、緑のタイルとの相性がぴったりだ。どこか懐かしさを感じる色の組み合わせ。それは、たとえば、クリスマスや、鳥居と山の風景が連想されるからだろうか。日差しが暖かくなり、春らしさを感じる今日この頃、クリスマスが遠い昔のように感じる。わずか2ヶ月前のことなのに。そして、緑の山を背景に美しく映える赤い鳥居は、私が小さいころから何度も見てきた故郷の風景だ。そうして、懐かしさは親しみへと変わり、そっと扉を開ける。

 

 

 軽い足取りで重圧感のあるタイルを踏みしめながら店内へ。タイルは、お店の奥まで続いている。カウンターも青のタイルで造られており、壁と床のタイルで包み込まれるその空間は京都の銭湯のようだ。コーヒーを飲みながら新聞を読む人、店内で「おはよう」と挨拶を交わす人たち。そんなのどかな光景を見ていると、ここも銭湯のように、ゆるやかに地域の人たちを繋ぐ場所になっているのかもしれないと思った。そして、緑のスウェード素材の椅子と、メニューや写真が挟み込まれた赤のテーブルが目に入る。親しみやすさの中に優雅な気分にさせてくれる仕掛けがたまらない。

 

 

 メニューは豊富で、何を頼もうかと迷う。しかし、お店の前の看板に書かれた“名物”という文字は見逃していない。そこで、名物のフルーツサンドとハムチーズピザサンドを注文。少し小さめのこのテーブルが、ふっかふかのサンドたちで埋め尽くされる光景を想像しながら出来上がるのを待つ。そうしているうちに、想像が現実に。お皿にちょこんとのせられているサンドたちを見ていると、もはや1つ2つではなく、1匹2匹と数えたくなるくらいそのフォルムが愛らしい。

 

 

 まずは、大本命のフルーツサンドをいただく。いちご、キウイ、みかん、ぶどう、パイナップル、マスカット。私と艶めくフルーツたちのかくれんぼの決着なんてみえている。クリームが白とピンクの層になっていることまで見つけてしまった。さっそく、フルーツとクリームを逃さないように頬張る。甘さと酸っぱさが口いっぱいに広がり、勝利の味を噛み締める。しかし、そんな喜びも束の間。シャリッ。クリームに隠れていたのは、私が大好きなりんご。甘すぎないクリームとの相性はバッチリで、りんごの酸っぱさと食感が良いアクセントに。最後の最後に思いもよらず、宝箱から輝く宝石を見つけた気分だった。そして、そんな宝箱は中身も重要だが、宝箱そのものも魅力的であればあるほど、宝石は輝いて見える。その条件を満たしているのが、このフルーツサンドである。パンは食べ応えのある柔らかさで、パンの耳までちゃんとついてくる。サンドにパンの耳あり派の私には最高の宝箱だ。

 

 

 そして、ハムチーズピザサンドもお裾分けしてもらう。名前からして、欲張りなサンド。フルーツサンドのフルーツを、全部一緒に口に入れたいと頬張る私にはぴったりのサンドだ。またまた口いっぱいに頬張ると、ハムをベースに、チーズとケチャップがちゃんと調和されている。欲張りでありながらも、その素直な味に驚く。また、パリッと焼かれたパンとの相性は抜群だ。

 

 懐かしさと親しみやすさの中に特別感を醸し出す店内。それを包み込み、期待させる仕掛けが施されている外観。また、艶めくフルーツや魅力的な具材たち。それを包み込み、中身を引き立てるパン生地。喫茶静香のお店とサンドは、どちらも西陣の宝箱なのではないかと思う。そして、まだまだ西陣の宝箱は眠っているのではないか。そんな予感と欲張りな気持ちをお供に、たくさんの宝箱を探しに行きたい。