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西陣にまつわる人々が、毎日綴るリレーコラムCOLUMN

2022.03.13
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去年、2021年は3月半ばで京都の観測史上最速の桜の開花のニュースが聞こえた。ネットであやふやに見かけた「一条戻橋の桜はもう散り始めているらしい」との情報で、3月末の夕刻になって慌てて向かった。一条戻橋は、文章博士・三好清行の葬列がこの橋を通っているときに、死の知らせに駆けつけた息子・浄蔵がどうか戻ってきて欲しいと誠意を込めて祈願し、父親が一時蘇生して父子の交流を温めた伝説から「戻橋」の名前になった謂れがある。桜はその儚さから死と結びついたイメージがあり、京都で眺める桜は幽玄さを感じる。まして死者が蘇る伝説がある一条戻橋の桜!と想像を膨らませていったら、儚さの象徴ともいえる薄いピンクが舞い散るソメイヨシノではなくピンクの色が濃い別の種類だったようだ。だがイメージと違ってがっかりということもない。周辺住民の憩いの場、堀川の清流をゆっくり散策する人たちの目を楽しませ春の到来を告げていた。
そのまま一条戻り橋ともゆかり深い安倍晴明を祭神とする清明神社に立ち寄る。非接触型電子おみくじで出た番号のくじをひく。29番中吉。今年こそ良いタイミングで桜を眺めたい。まもなく京都で迎える三度目の春だ。

川原さえこ

もう一つの椅子川原さえこ

京都府長岡京市在住。フリーランスのリサーチャー、保育士。「もう一つの椅子」という名義でまちのランドスケープ(風景)研究を行う。東京下町から京都へ来て約1年。観光客でもなく京都の地元民でもない境界の視点でふらりと歩いたまちの景色を描く。