日差しがあたたかい。一条戻り橋の河津桜は、もう葉が目立ち始めている。
一条通りを東に歩き、お店が見えると、正面ではなくあえて駐車場側から敷地に入る。小道を抜けると、空間がふっと開き、美しい庭園とテラス席が現れた。
ここは虎屋茶寮 京都一条店。黒を基調としたインテリアに静かな店内。落ち着いている雰囲気の中で、店員さんたちはテキパキと動いている。テラス席に座りたいことを伝え案内してもらう。
「少し寒いので」とブランケットとお茶を持ってきてくれた。「注文がお決まりになりましたらお呼びください」と離れようとする店員さんを呼び止める。
今日は3月16日。この時期の注文は決まっている、よもぎ餅だ。
虎屋のよもぎ餅は、この時期だけ、一部の店舗でしか食べられない。
二年前、お汁粉目当てで訪れたとき、期間限定の文字を見つけ、注文しないわけにはいかなかった。それからは河津桜が咲き始めると、まだかまだかと待ちわびてしまう。
よもぎ餅が席に届くと、まずは一緒に注文した玉露に湯を注ぐ。
茶を蒸らしている間に、よもぎ餅をひとつ。ゆっくり焼かれているのだろう。餅がとろりとして、こし餡と口の中でやわらかく混ざり合う。添えられた桜湯をひと口含み、ゆっくりと深呼吸をする。
よもぎと桜の香りで口いっぱいに春を感じる。この瞬間がとても好きだ。
続けて玉露を飲み、濃厚な旨味に思わずしばらく言葉を失う。これがいつもの流れだ。
暖冬とはいえ京都の冬はとても冷える。
三月に入ると、少しのあたたかさとともに花粉が春の訪れを知らせる。
花粉症になってからは春が恨めしいものになっていたが、本来は全ての生物が動き出すような香りが好きだった。それを思い出させてくれるのが、虎屋のよもぎ餅だ。春のあいだに、もう一度食べに来ようと思う。
