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西陣にまつわる人々が、毎日綴るリレーコラムCOLUMN

2021.11.30
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去年の夏のこと。今や、それがなんであったか忘れてしまうくらいほんとうに些細な、何というわけではなく、ボタンを掛け違えたような心のおさまりの悪さを抱えていた。新しい街に住み始め半年ほどすぎて、生活に慣れてきたからこそ、内に溜まったストレスだったのだろう。
地蔵縁日のある24日、千本上立売にある石像寺、通称・釘抜地蔵に立ち寄った。
石像寺は、弘法大師・空海が創建し、唐から持ち帰った石で空海自らが彫った地蔵菩薩が本尊だ。釘抜地蔵の由来は、人々のさまざまな苦を抜きとってくれるという苦抜(くぬき)地蔵が釘抜(くぎぬき)地蔵になまったという説、室町時代に両手の痛みのためにこの地蔵に祈った大阪商人の夢枕にお地蔵さまが立って、手から釘を抜いたという伝承から釘抜地蔵になったという説もある。境内には多くの釘の奉納がありその信仰への人々の思いを物語っている。同時に地元の人の参拝も多いお寺で、近隣の人が日常的に訪れ、よく手入れされた気持ちの良い風が流れている。
住職の法話を聞きながら、夏の青空と、セミの声と風に揺れる木々の音を聞いていたら、わたしの中の些細なモヤモヤは、いつの間にか消えていた。

川原さえこ

もう一つの椅子川原さえこ

京都府長岡京市在住。フリーランスのリサーチャー、保育士。「もう一つの椅子」という名義でまちのランドスケープ(風景)研究を行う。東京下町から京都へ来て約1年。観光客でもなく京都の地元民でもない境界の視点でふらりと歩いたまちの景色を描く。