連載『心が躍るあの市へ』第2回。今回の市は、妙顕寺で開催された”FUDGE Marché”。妙顕寺は、鎌倉時代後期、元亨元年(1321)に創建された京都における日蓮宗最初の寺院であり、豊臣秀吉が京都の宿所として利用していたことで有名だ。現在は、桜や紅葉の隠れた名所として人々が訪れている。そんな妙顕寺に、FUDGEの世界観と京都の伝統産業の技術や素材が組み合わさったアイテムが並んでいた。その中で、印象的だったお店をいくつか紹介しようと思う。

 


 

・CARTA(カルタ)

 

 

香りものでは珍しい珊瑚(さんご)ディフューザーと柑橘を使用したフレグランスオイルを販売していた。百人一首の“カルタ”を由来とし、歌人たちが日本の風景を見て気持ちを歌ったように、「心に浮かぶ日本の情景を守り、繋いでいく」という想いをもとに作られた商品が並んでいた。今回の香りのルーツは奄美大島にある喜界島の柑橘たち。珊瑚の島で、先祖代々大切に守られて育った花良治みかんとシークーをメインとした香りであった。が、同じ柑橘類といっても香りは全く同じではないのである。花良治みかんを使ったKERAJIの香りは、みずみずしさの中にもスパイスのようなものを感じさせ、落ち着きがある。またシークーを使ったIJICHIの香りの方は、フレッシュだが強さと奥行きも感じられる香りなのである。この香りを升のような形の珊瑚ディフューザーに垂らすことで、香りが広がり、喜界島を身近に感じることができるのだ。 カルタに書かれた喜界島の紹介文をまだ読み終えていないにもかかわらず、すっと手を出し、お手付きをしたくなるほどにおしゃれな珊瑚ディフューザーと柑橘の香りは日々の生活に癒しをもたらしてくれるだろう。また、CARTAの展示方法も印象的だった。まさにカルタを重ねて並べたように置かれ、ひとつひとつの札をじっくりと見たくなるような展示は、まるで札をじっくりと眺め、歌を詠まれたときに、すっと手を出す準備をしているかのように隅々まで眺める楽しさがあった。

 

 


 

・naotooga(ナオトーガ)

 

 

naotoogaでは、おおがなおとさんのハンドメイドで、ひとつひとつ丁寧に作られたキャラクターを使ったぬいぐるみやポストカード、キーホルダーなどが並べられていた。また、似顔絵もやっていたので、お願いをしてみることにした。椅子に座ると「一瞬だけマスクを外して顔を見せてください」とのこと。「一瞬でいいの?」と疑問に思った私も、完成した絵をもらって納得した。絵を見みると、かわいらしいruruというキャラクターをモチーフにした似顔絵と、FUDGEオフィシャルキャラクターのファージー(プロフィールによると、出身は北極圏のどこかで、シロクマのようだが腹の底は真っ白ではないらしい)が描かれていた。被写体がもつ雰囲気は、持ち物や服装から作り出され、やわらかく表現されていた。似顔絵を描いてもらっている間、出展者さんはその時の表情や後ろ姿なども写真や動画で残しておいてくれた。確かに自分が似顔絵を描いてもらっている間の顔は見たことがない。撮ってもらった写真を見ると、普段鏡で見る顔や友達と写真を撮るときの顔とはまた違って少し緊張しているようだった。そんな緊張した顔も、ruruをモチーフにすると目を細めたようなやわらかい顔になった。完成した似顔絵を受け取り、お部屋のどこに飾ろうかとわくわくしながらマルシェを巡った。

 

 


 

・courircourir(クリールクリール)

 

 

お部屋に飾るのは観葉植物やnaotoogaさんの似顔絵だけではない。ぽろぽろと乾燥して散ったお花を掃除することなく、また長期間家を空けても水をあげる必要のない植物といえば、この針金で作られたお花である。そんな針金から生み出されたお花に根が生えているのが印象的だったこのお店。根っこがないようにふらふらと、気の向くままにマルシェを巡ってきた中で、このお店にたどり着いたときには、にょきにょきと足から根が生えたように立ち止まり、このお花を見た。1本の針金から生み出される、繊細な花の表情を無機質な針金で立体的に表現されていた。モノクロだけど、寂しさはなく、というより、どこか華やかな感じがするこのお花をインテリアとしてお家に迎え入れたら、どんなに豊かな生活を送ることができるだろう。そのように想像しながらひとつひとつのお花を見るのは楽しかった。

 


 

・forme.(フォルム)

 

 

forme.の「夢ミル京都喫茶巡りシリーズ」では、変わりゆく時代の中で姿を変えずに生き続ける京都の「喫茶店」という文化を表現したポストカードやノート、マスキングテープなどが販売されていた。一度その喫茶店に行ったことがある人には、「見たことある、おいしいかったよね」と思い出させ、まだ行ったことがない人にでも、「このドーナツおいしそう、行ってみたいな」と思わせてくれるようなものばかりだった。喫茶店といったら何を想像するだろう。サンドウィッチやナポリタン、クリームソーダ。喫茶店といったらもちろんコーヒーだ、という人もいる。しかし、まだコーヒーをブラックで飲むことができない私は、ゆったりと過ごせる時間を求めて喫茶店へ行くのである。「FUDGE Marché」で手に入れた限定品のファージートートバックを持って喫茶店巡りをしてみるのもいいかもしれない。

 

 


 

ひと通りお寺の中を巡った後は、KéFUのハーブティーとその隣にあったお店、*kyanae.bon(キャナエボン)のクッキーとフィナンシェを、日の当たる暖かい縁側で食べることにした。町家の縁側とはまた違って、綺麗に手入れされている広いお庭を眺めながら、何人でも座れる長い縁側での休憩は最高のひと時であった。帰り際、せっかく重要文化財であるお寺に来たのだから本殿も拝観しないともったいないと思い、お寺の中をもう一度巡ることにした。まさに、京都の伝統技術を感じられるお寺の本堂には大きな菩薩が祀られている。そして、天井を見上げてみると、様々な家紋が描かれている。この天井は格天井(ごうてんじょう)といい、1975年、老朽化によって天井が崩れた際に、寄進された方々の家紋を配置している。その他にも柱に彫刻が彫ってあったり、金丸(かなまる:僧侶がお勤めで使う梵音具)が置かれていたり、魅力が沢山詰まっている。妙顕寺の中で自分の推しスポットを見つけてみるのもいいかもしれない。そんなお寺の中には、春の訪れを今か今かと待ち望んでいるつぼみがあった。次は、春がやってきたころに訪れよう。

 

さて、次回はどの市に行こうか。カレンダーを見ながら予定を決めるのも楽しみのひとつである。お家を飛び出し、自転車を走らせたくなるような、心が躍るあの市へ。

 

※普段の妙顕寺の大本堂・庭園見学には入場料として500円かかります。

(参考:妙顕寺ホームページ)