小さな頃から「よそ見しないで歩きなさい」とよく言われていた。
京都に住むようになってからも、電柱に激突したことが三度ほどある。電柱脇のお店から飛び出して来たおばちゃんに渡された冷たいタオルを血で赤くした。あまりに良くぶつかるので、当時付き合っていた彼女に掴まって歩くように言われた。
私が生まれ育ったのはいわゆる東京の下町だが、幼稚園へは車で30分かけて送ってもらっていた。小学校は電車で40分だった。中高は電車で50分。大学は電車で2時間半を通った。
当時の生活空間を並べてみる。
[ 家⇔(徒歩10分)⇔駅⇔(電車)⇔駅⇔(徒歩10分)⇔小/中/高/大 ]
地元空間に接触している時間は1日約20分。地元で胸おどる何かが起こるには、アニメ1話分よりも短い時間に期待するしかなかった。もちろん何もなかった。
その後京都の大学に編入し今に至る訳だが、日常生活は徒歩で完結出来る範囲に収まっている。生活機能面だけではなく、魅力的なお店、歴史的な遺構。川が流れ、山に囲まれた地形。偶然すれ違う知人たち、通りの間隔なども心地良く、先が気になって仕方がない「細い道」がそこかしこに伸びているので退屈しない。
これらはつまり徒歩を前提とした「人間のスケール」でまちが形どられているという事なのだと思う。
平安京はおよそ東西4.5km、南北5.2km。平城京はおよそ東西4.3km、南北4.8kmだったそうだ。一般的に人の歩行速度は時速4.8kmと言われているので、まっすぐ歩けば一時間前後で端から端まで歩けてしまう。
西陣を含む上京区を東西に貫く「今出川通」は、東の鴨川から西の北野白梅町まで約3.8km。
歩くと約50分。これくらいがちょうどいいのかもしれない。
ちなみに首都圏の平均通勤時間も約50分だそうだ。
特定非営利活動法人 ANEWAL Gallery飯髙克昌
代表理事/アートディレクター。 都市計画・建築設計を学んだ後、設計事務所勤務を経て2004年 ANEWAL Gallery設立。”外に出るギャラリー”をコンセプトに通り、路地、地下道、廃屋から重要文化財まで都市の様々な空間で文化・芸術と地域・公共を繋ぐ活動を展開している。