年が明け、あちらこちらで新年のあいさつを交わす。大掃除を終え、玄関にしめ縄を飾り、年越しそばを食べて迎えた新年に生きる人々は、なんとなくすっきりとした顔立ちで、久しぶりに会う親戚や友人とゆったりとした時間を過ごしている。
そんなお正月の楽しみといったら何だろうか。親戚が集まっておせちを食べたり、初詣に行ったりすることだろうか。「もういくつねるとお正月」という童謡があるほどに人々は昔からお正月を楽しみにしてきた。ポストに届く年賀状を見ながら、お正月にしか味わうことのできない晴れやかで心がすっきりするような、何か新しい気持ちになり、今年も1年頑張ろうと思わせてくれるあの空気も楽しみのひとつである。
1月8日、KéFUではもちつき大会が行われた。もちつきといっても思い立ったその日にできるものではなく、準備が必要である。前日にはお米屋の赤井米店さんから石臼や杵、蒸し器などを借り、もち米を研いで水に浸した。今回は3回のぺったんをしたため、キッチンでは水に浸されたもち米がボウルに入ってたくさん並んでいた。当日、水に浸され、水を十分に吸ったもち米は、焼かれてもいないのに膨れた状態になり、蒸されるのを「今か今か」と待っていた。そして、もちつきが始まる約45分前、最後の蒸すという準備が始まる。しかし、蒸しあがったもち米を石臼に入れてからすぐにつくのは少し気が早すぎるのである。まずは、杵でじっくりともち米を均等に潰していく。この潰す作業を飛ばしてしまうせっかちさんは、後から米が飛び散り、白の水玉模様の服になりかねない。おもちになることなく洗濯機に入れられ、流されてしまうもち米の気持ちを考えると大変切なくなるものだ。それから杵の重さをもち米に伝えるように「よいしょ、よいしょ」とつくのである。だんだんとお餅に仕上がっていくその様子と香りに臼を囲む参加者の気分も高揚し、一緒になって「よいしょ、よいしょ」と掛け声を発した。なかには、もちつきをするのが初めてという子供もいて、声のかけかたは回によって変わった。「がんばれ、がんばれ」という子供たちのかけ声はKéFUに響き渡り、カフェで働く私も応援されているような気がした。
つきたてのおもちはその場で小さく丸められ、参加者に配られた。袋に入ったおもちを小さな手で握りながら「あったかいね、ふわふわだね」というなんだか心が温まるような小さな子の声も聞こえた。嬉しいことにスタッフである私も、もちつきに参加させてもらうことができた。もちつきをしたのは何年ぶりだろうか。小学生くらいの時の記憶を遡ってみると、あの頃はまだひとりで重い杵を持つことができず持ち上げるのに一生懸命になっていた。それは今も変わらず杵は思っていた以上に重く、臼の真ん中をつくことができない。これは私の筋力不足なのだろうか。周りの大人たちも想像以上の重さだったようで、「明日筋肉痛になるのではないか、いやこの歳になると次の日に筋肉痛は来ないか」なんてことを話している。なにはともあれ、久しぶりのもちつきは新鮮だったのである。
お餅の食べ方はいろいろある。砂糖醤油やゴマ、大根おろしなど挙げだしたらきりがない。KéFUのもちつき大会ではおぜんざい、磯辺(のり醤油)、ゆず味噌、きなこ、おろし納豆がトッピングとしてあった。参加者たちが集まるカフェの中や中庭の様子を見てみると大人にはおぜんざい、子どもにはきなこが人気のようだった。私はおぜんざいでつきたてのお餅を頂いた。北野天満宮付近に位置する中村製餡所のあんこで作られたおぜんざいは、甘すぎない絶妙な甘さでおいしかった。トッピングとしては少し珍しいゆず味噌も、意外と人気だったような印象である。
スタッフおすすめのおもちの食べ方は何だろうと聞いてみると、砂糖多めの砂糖醤油が好きだったり、汁気が少なめなおぜんざいが好きだったり、なかには焼いた餅の方が好きというように、それぞれにこだわりがあった。おもちのアレンジレシピなんてものを探してみれば、1年の間は毎日違う味を食べられるほどたくさんあり、年中おいしく食べることができるのではないかと思うのである。その中でも特に気になったのは、「甘ダレ餅ベーコン」である。めんつゆと蜂蜜で作る甘ダレが餅に絡み、ベーコンのしょっぱさとマッチするようだ。たべれぽ(作った料理を写真と文章で紹介したり、レシピの評価を投稿できる機能)を覗いてみても「簡単で美味しい、間食のトップレベル!」と大絶賛である。また、おもちをグラタンに入れてみたり、大福に使ったりしているレシピもある。ごはんとしてだけではなく、スイーツにまでも生まれ変わることができるおもちは、お正月食材の中ではどれにも負けない万能食材だと感じた。まだまだお餅がお家に残っている人はユニークな食べ方を発案して楽しんでみてはどうだろうか。そしておすすめの食べ方を見つけた人は、ぜひとも紹介してほしいと思う。
ビジュアルデザイン:大成 海